ー別れるー













会議が終わり、ロイは仕事部屋に向かう。
エドは待ちくたびれて眠っているか、それともソファにちょこんと座っているか。
どちらにせよ、エドがそこで待ってくれていると思っていた。

の、だが。

ガチャリと扉を開けて、部屋を見渡してみても、金髪のおさげ頭は何処にも見当たらない。

<・・・書庫、か?>

此処にいない、という事は、書庫にいるはずだ。
さっき、自分からもそう告げた。
『書庫か私の部屋に居てくれないか』と。
しかし、最近では、そういう場合は、ロイの部屋で待っていてくれる事が多かった。

何か心に靄がかかった様な気がしたが、気にはせずに、今度は書庫に向かった。

ーエドが、恐ろしく怒っているとも知らずに。


書庫の扉を静かに開くと、元気の良いエドの声が耳に飛び込んできた。
やはりここだった。
帰られていないという事が分かり、ホっとしたのも束の間。

「無理。大佐はもう、信用できねー。別れる」

相当怒っている様子のエドの声。
次に、それに動揺を隠せないアルの声が書庫内に響いた。


心臓の音が鳴り響いて、痛い。

彼は今、何という言葉を口にしたのか。


カツン、と靴の音を響かせると、アルが姿を見せた。

「た、大佐…」

アルの言葉に、エドも姿を見せた。
いつもの笑顔は何処へやら。
ロイの姿を見た途端、ギっと思い切り睨む。
しかしロイも怯む様子はなく、エドの方を真っ直ぐ見つめる。

「どういう事だ」

「どうもこうもねぇよ。信用できなくなったから別れる。そんだけだ」

「私が君に、何をしたというんだ?」

「うっさい!夕方には此処を出る!司令部を出たら、今の関係は終わらせる」

ロイの言い分を聞こうとはせずに、エドはロイに背を向けた。
あまりの怒りぶりに、ロイは頭を抱える。
まず、エドが何を怒っているのかが分からない。
しかし、たとえ原因が分かっていたとしても、ここで自分が何か言ったって、きっと言い訳にしか聞こえないのだろう。
それぐらい、エドは怒っていた。

だからといって、このまま関係を終わらせるのを許すだなんて、そんな事、できるはずもない。
何とか、しなくては。


「…明日の夕方までにしないか?」

「はぁ?」

「君が何を怒っているのか分からないが、私は君と別れる気はない。今日の夕方に此処から出るというのでは、君に許してもらえる確率が低すぎる」

怒っている原因すら、知らないのだから。と、ロイは付け足す。

「嫌だ。今日、此処を出る」

「…今日出て行かないと、私にほだされそうで怖いのかね?」

ニヤっと、まるで心を見透かしているかのように笑われ、エドはカっとなる。

「…っ馬鹿言え!好きなだけ居てやるよ!どれだけ居たって、同じ事だ!」

アンタとはもう、終わらせる!と、それだけ言うと、エドは再び本を探し始めた。
エドの言葉の数々に、かなりのダメージを受けたが、そんな様子は微塵も出さずに、ロイは書庫を後にした。







<一体、何を怒って・・・>

書類の山は、さっきから全然手が付いていない。
仕事など全然、はかどらない。
だが、仕方のない事だ。

もう何度目かの溜め息を吐くと、ホークアイの視線が鋭くなった。

「大佐、気分が優れませんか?」

「ああ、いや…」

ついさっきまでは、エドが司令部に来てくれて気分が良かったというのに。
そのエドから、別れの宣告をされてしまった。
今や気分は最悪だ。
一寸先は闇、とは良く言ったものだと思う。

「書類、今日中にお願いしますね」

「…どうしても今日中じゃないと」

「今日中にお願いします」

やたらと力強い口調で言われ、また、溜め息が零れた。
その日のノルマはその日にこなしておかないと、クリスマスに響く恐れがある。
そんな事になっては、エドとの約束が台無しだ。
だが、今となっては、仕事に問題が無くとも、クリスマス、無事に二人で過ごせるのかどうか危うい。

また、溜め息。

一体、今日は何回、溜め息を零すのだろうと、そんな事を思ってしまった。






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