ー嫌いになった?ー








ー壮絶に、疲れた。
書類の山を片付けると、ロイは仕事部屋を出る。
こんな時、エドが居れば。疲れも吹き飛ぶというのに。
近くにいても、笑顔は見せてくれないし、今は何やら、恐ろしく自分を嫌っているようだった。

まだ、司令部に居るのだろうか。
言ったことは守る男だ。明日の夕方までは中央には居るだろうが。
司令部からもう出たとしても、明日にはまた、司令部の方へ顔を出すと思うが。


書庫にまだ、居るかもしれない。

そう思い、ロイの足は書庫へ向かう。
無意識に、足は速くなっていた。

書庫の扉を開けると、やはりまだ、エドと、弟のアルフォンスが居た。
本に向けていた視線を、一瞬だけこちらに向けたが、それでも直ぐにまた、本に戻した。

「…そろそろ戻るか、アル」

パタンと本を閉じると、埃が舞った。
ロイには何の言葉もかけずに、本をしまいだす。

…怒っている。

「…鋼の。明後日はもう、24日だ」

「知ってる。24日の朝には、俺はここを出る。知り合いがくるから迎えに行く」

ロイとの約束は破棄すると、エドはそう告げている。
自分がこんなに仕事に打ち込んでいるのも、エドの為だというのに。
それを分かっていないというのか。

ダン!と本棚に手を付けると、エドを自分の体で逃げれないようにする。

「…何を怒っているんだ。私には訳が分からない」

ロイの顔が近づいても、怯む事なく、エドはロイを睨む。

「俺にも訳が分からない。24日は他のヒトと過ごせば済む事だろ?」

エドの頭に、女の名前で埋め尽くされた手帳がフラッシュバックする。
それに、ハボックの言葉。


『でもまぁ、今月はお嬢様方とのデートが多かったけどな』


どれだけ、たらしこめば気がすむのだろう。
自分の一人や二人、居なくたって、何の問題もない。

まるで、そう言われているようだった。

「何で君との約束を、他の人と?」

よくもぬけぬけと言えたものだ。
エドは益々腹が立つ。

「頑張って仕事して空けるような大事な日を、わざわざ俺と過ごさなくてもいいって事だ!帰るぞ!アル!」

ロイの足を思い切り踏むと、その場を抜け出した。
赤いコートを翻すと、エドはアルを連れて、書庫を出た。




踏まれた足を押さえつつ、ロイは頭を殴られたようなショックを覚えていた。
エドは何と言った?

24日の約束は破棄で。
冷たい視線を向けられ。
足を踏まれ。

ーエドに嫌われている、完璧に。

一体、彼の中で何が起こっているんだろう。

24日、他の人と、と言った。
冗談ではない。
一緒に過ごしたいのは、エドだけなのだ。
それだけの為に、仕事だって。

それなのに、何でこんな風になってしまったのだろう…。









***







ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ。
アルは楽しそうに電話をしている。
ぼーっと、寝っ転がっているエドとは大違いだ。
どうやら、相手はウインリィらしかった。

どうして、こんな事に。

それを思っては、手帳が頭を占領し、腹が立つ。
これを繰り返していた。

24日、これでも楽しみにしていたのだ。
勿論、別れだって望んではいない。

だが、駄目なのだ。
あの女タラシの手帳を見て、それでも尚、許して何事も無かったかのように付き合うなんてできない。

自分にだってプライドがあるのだ。







ろ、ロイ情けない感じですか…


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