一層、こんなプライドは粉々にしてしまえば、もっと素直になれるんじゃないかと…そんな事も思った。
だが、これが自分なのだから仕方ない。
そしてロイは、そういう自分を受け入れてくれていた。
気がつけば、ロイの事ばかりを気にしている自分に嫌気が差した。
24日のこと、ロイの女関係のこと…
何故こんなに自分ばかりが気にしなくてはならないのか、と思うとイライラしてきた。
そうだ、もうとっとと24日も、ウィンリィ達の案内をしてしまうと決めてしまえばいいのだ。
ロイには24日の約束を破棄するような事を言ったが、勿論本気はあまり混じっていなかった。
だが。
ロイの事など知ったことか。
そう決めると、楽しそうに電話をしているアルに向かって大声を張り上げた。
「アル!24日、俺も案内…」
そこまで言うと、コンコンと扉が音を立てた。
ギイ、と鳴る扉を開けているのは店主だった。
そして堂々と、扉を開けさせているのは
「大佐…」
「−声が大きいな、鋼の。外まで聞こえるぞ」
ロイに対して露骨に嫌な表情を見せると、無視して部屋を出ようとした。
だが、扉の前にはオドオドとした店主が立ちはだかっている。
その隙に、ロイはエドの手首を掴んだ。
「っ…何のつもりだよ!クソ大佐!」
「24日、何と言おうとした?」
「案内!セントラルを案内する用事があんだよ!」
「−先約があったんじゃないかね?」
真剣に問われ、エドはグっと言葉に詰まった。
先約とは、つまりロイとの約束の事だが…。
だが、ここで素直に返事ができたら苦労はしていない。
「…ねぇよ、先約…なんて」
言うと、ロイが少し眉を寄せて、悲しそうに瞳を揺らしたのが分かってしまった。
ズキ、と心が痛んだ。
こんな男に心が痛むものかと、思ったのに…。
バっと手を振り解くと、ロイを睨みつけた。
「もう、いいだろ。…24日、どうしてそんなになってまで、オレと過ごしたがるんだよ」
「…愚問だな。君は私の恋人だ」
「…何でアンタがそんなにオレと過ごしたがっているのかわかんねーけど、24日だけは一緒に過ごす」
くるりとロイに背を向ける。
恋人なんて、今の状況ではそんなの何の理由にもならないではないか。
一体いくら恋人がいるのだろう。
もう終わらせたい。
「24日で最後だ」
言った途端、ロイの圧倒的な力で振り向かされる。
驚いた。
そのまま、壁に押さえつけられる。
ダンッと、後ろで響いたのが分かった。
「…っふざけんな!」
「ふざけているのは君の方だ!どういうつもりなんだ、一体」
本当に私と、別れられるつもりか、
と、そう聞かれた。
「別れるって、もう決めてんだよ。…明日、司令部へ行くから。いいだろ?それで。今は…」
今は大佐と、話したくない、と告げる。
また、悲しげな瞳をする。
女たらしのくせに、どうしてこんな瞳をするのだろう。
自分の一人や二人、切れたってどうってことないはずなのに。
分からなくなって俯いていると、強引に上を向かされ。
言葉を、奪われた。
遊びなら他でやれと、そう言おうと思ったのだが、ロイの唇に全て吸い尽くされる。
この男と唇を合わせると、もう訳が分からなくなってしまう。
そういうのも、もう嫌だった。
「…っん…やめろ!もう帰れよ!…こんな事してる暇じゃないだろ…っ」
「…そうだな。司令部へ戻れば山積みの仕事が待っている」
「今月は特に忙しいって、少尉に聞いた。仕事あんだろ。…もう行けよ」
誰との約束の為に忙しいのか、なんて事は絶対に聞きたくなかった。
ロイが何か言葉を吐く前に、この空間から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
これ以上、自分以外の誰かが居るという、決定的な『何か』を見つけてしまうのは、嫌だった。
たとえ別れるのであっても、それを見つけたくはない。
あの手帳で十分だ。
一瞬でもロイとちゃんと、付き合っていた時間があった事を、濁らせたくなかった。
苦々しい顔をすると、エドはロイに背を向けたまま、沈黙した。
重い空気が流れる。
ロイが沈黙を破っても、空気は全く変わることがなかった。
「明日、必ず司令部に」
一言だけエドの背中に投げかけると、ロイは部屋から去った。
開いた時と同様、扉はギイと鳴ると、パタン…と静かに閉じた。
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