その晩は中々寝付けなかった。
しかも、やっと意識を失ったと思ったら。
ロイの夢を見た。
不敵な笑みを浮かべ、しかし直後、悲しげに瞳は揺れる。
始めはロイの隣を歩いているのだが、段々と自分の方が先に進んで行く。
いつしか隣にロイの姿は見えなくなる。
後ろにいるかな。
そう思い、ふと、後ろを振り返ると、もう完全に、ロイはいないのだ。
そこで、目が覚めた。
嫌な気分だった。
だが、このままだと本当に、「そういう事」になるのだ。
それでも、ロイの手帳を思い出すと、素直に謝る気にはなれなかった。
ウィンリィ達が来るまで、まだ時間がある。
もぞ、とベッドから起き上がると、アルの身体も動いた。
「兄さん?早いね。まだ寝てても平気だよ。ウィンリィ達が着くのは午後になるし」
「ああ、うん…。ちょっと出てくる」
「司令部?」
「………」
一瞬でバレてしまった。
目線をずらしてこくりと頷くと、アルは「そっか」と呟いた。
服を着替え、三つ編みを結う。
「じゃあ、いってくるな」
「兄さん、朝食…」
言った頃には、ドアは閉じられていた。
相当焦っているのだろう。
原因は知らないが、そんなになるなら、早く仲直りすればいいのに、とも思ったが、アルはエドの性格をよく知っている。
そう簡単にいくものではないのだろう。
ヤレヤレと鎧の身体を起こすと、部屋のカーテンを開いた。
この扉を開ければ、ロイが居る。
いつものように、大きな机に、大量な書類が置いてあるだろう。
そうして自分が入っていけば、憎たらしい文句を口にするのだろう。
『や、鋼の。小さくて見えなかったよ』
安易に想像できてしまうところが、益々苛立ちを増長させた。
いつまでも扉の前で突っ立っている訳にもいかない。
コンコンとノックをすると、部屋に入った。
すると、やはり想像通り。
大きな机に、大量な書類が積まれていた。
エドをその瞳に映すと、うっすら笑った。
「…鋼の。相変わらず小さいな」
「…小さい、ゆうな」
そう言うとまた、うっすら笑った。
…疲れているのだろうか。
ロイはふざけてそういう真似をする事はあっても、「疲れ」を全面的に誰かに見せるような男ではなかった。
少しだけ、心配になって近くに寄ってみると、電話が鳴った。
ビクっとして、そのまま足を止めておく。
「誰だ?-…ああ、いや、今は居ないと言ってくれ。大事な客人が来ている。改めて、かけ直すと伝えてくれ。丁寧にな」
誰が電話をかけてきたのか。
何故、電話を断るのか。
怪しくて、そう思ってしまう自分も嫌で、心が沈んだ。
本当に、もう終わらせるべきなのだ。
こんな恋愛はおかしいと、もっと早く気がつくべきだった。
大佐の地位に居て、大人なロイと。女たらしと巷で有名すぎるこの男と、男同士の恋愛など。
どう考えても、無理だと。
今日見た夢で、揺らいでいた心は、決心をした。
夢のように、明日で完全に、ロイを失う。
「…さて、鋼の。そろそろ聞かせてほしい。君が怒っている理由を」
「…時間ないんだ。これからウィンリィ達を迎えに行くから。…明日話す」
そうして、話した後は、お別れだ。
厳しい顔をしているロイの目の下には、うっすらとクマが見える。
寝て、いなんだろうか。
あれだけ、手帳にビッシリと女の名前があれば、寝る暇もないのも頷けた。
「…君の宿は、広場があっただろう。そこの銅像の前で待っていたまえ」
厳しいような、何処か気の抜けたような表情のままエドに告げる。
了解を出すと、ロイに唇がほんの少しだけ、開いた。
何か言いかけたのだろうか。だが、エドは背を向けると部屋を出た。
もう個人的な用事で、此処の部屋に入ることも無くなるのだと思うと、胸がズキリと、痛んだ。
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