「ねえ、エドなんかあったの?」
久々の再会だというのに、エドはというと心こころあらずな状態だった。
おかしい、と思ったウィンリィがアルにこっそりと聞いてみるが、、アルは何も答えない。
兄の様子がおかしいのは、ロイの所為だというのは分かっていたが、エドとロイの間に何があったのかは分からなかった。
ただ、いつも冷静沈着なロイが、昨日あそこまで取り乱したのだ。
何かあったに違いない。
「…兄さん?ねえ、大佐と何かあったんでしょ?」
いくらこの間、口付けをされた所を見られたからといっても、答えられなかった。
ロイの浮気が原因で、喧嘩をして明日別れるつもりだ。などと言える訳がない。
「…ん。いや、でもたいした事じゃない」
「でも兄さん、元気ないよ。せっかくウィンリィやピナコばっちゃんが来てるのに」
何かあったなら話して。と、エドの高さまで腰を曲げる。
アルは優しい。だがウィンリィ達がいる前で、ロイとの事を打ち明ける訳にはいかない。
そうだ、折角来てくれているのに、失礼だった。
そう思いなおすと、エドはニッカリ笑った。
「なんでもねーって!ほら、それよりピナコばっちゃんもウィンリィも、どっか観たいとこあんだろ?早く行こうぜ」
何でもない。
そう。ただ、気がつくのが遅かっただけだ。
ロイと付き合うのなら、きっとあのプレイボーイぶりを許せる人間でないと駄目なのだ。
そうして自分は、それを許せそうにない。
だから元の関係に戻る。
それ、だけだ。
その夜から、雪が降り出した。
ロマンチックなホワイトクリスマスは、恋人達に喜びを与えるだろう。
窓からシトシトと降る雪は、しかし、降ったり、止んだり。
雪は好きだが、鋼の体はキンキンに冷えてしまう。
折角、少しは温かい生身の体さえも、冷やしていく。
明日、恋人という関係に終わりを告げようとしている自分には、少し寒すぎた。
朝起きると、まっさきにロイの顔が浮かんだ。
こんなんでこれから先、大丈夫なのかと心配してしまう。
いいや、もう諦めはついているのだ。覚悟はできている。
今日で最後の思い出になるのなら、楽しんだ方がいい。
ぎゅ、っと三つ網を強く編むと、ベッドから飛び降りた。
家を出る前に、アルはいってらっしゃい、と心配そうな声で呟いた。
この間のロイとのやり取りを見たのだから、心配するのも無理はなかった。
気を遣わせてしまった。折角のクリスマスなのに。
エドが眉間に皺を寄せると、アルは大きな鎧の手を、エドの頭に持ってきた。
優しく置かれると、「楽しんできて、ね」といつもどおりの声が、上から降ってきた。
「ああ。アル達も、楽しんでこいよ」
ウィンリィや、ピナコ達も気にしていたようで、出る前は笑顔で見送ってくれた。
皆の気遣いに感謝しつつ、もう今日はロイにつっかかるのはよそうと、心に決めた。
手帳の事は忘れて。
今日を楽しんで。
明日になったら、全てを忘れて。
元に戻れば、それでいいのだ。
所々に、雪が積もっている。今夜も降るかもしれない。
広場の銅像が見え始め、そこには、黒いロングコートを羽織ったロイが立っていた。
目立つ男だ。
容貌もそうだが、何処かオーラを放っている。
遠目でぼうっと見ていると、ロイが気がつき、体をエドに向けた。
「…やあ、鋼の」
「早いな。寒いのにごくろーさん」
コツ、コツ、と靴を鳴らし、近づいてくる。
白い息が確認できるまでの距離になったが、二人共言葉を交わさない。
「…………」
「…………」
目をそらしたい、ような気がした。
だが、今日で最後。それを思うと、じいっと見ていたい気もした。
だからと言って、こんな寒い中、ずっとこうしている訳にもいかない。
時間は限られているのだから。
「どこ行く?大佐、何か食ってきた?」
「いや、特に。君は?」
「なんも。どっか食いに行こうぜ!もー腹減った」
絶妙なタイミングでぐうーと鳴り出すエドの腹に、ロイは口元を緩めた。
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