「作ってくれたの?」
「…だって冴木さんに作って貰ってばっかりだったから」
言うと、冴木さんはにっこり笑って、私の髪をクシャリと撫でた。
どうも、子供のような扱いをされている。
何でだろう。やっぱりそういう対象じゃないのかな…?
そうか…。
そこまで思って、ハっとして、バシバシと自分の頬を叩いた。
な、なんでこんな事思うんだろう!
「…頬…痛くない?」
「っひ!!」
急にポンと肩を叩かれてびっくりした。
後ろを向けば、洗面所から戻ってきた冴木さんが不思議な顔をしていた。
わー!絶対バカだと思われてる!
「…た、食べましょ」
気を取り直して席につくと、二人で一緒にイタダキマスをした。
冴木さんは沢山食べてくれた。本当に、驚くくらい。
「美味しい」を連発してくれた。
冴木さんの方がよっぽど、美味しいもの作るくせに。
こういうとこ、やっぱ女慣れしてそうとか思う。
言うこと言うこと、妙に嬉しくて。
「冴木さん、ナンパのプロになれるよ」って言ったら、凄い嫌そうな顔をされた。
でもその後、フォローのつもりで「私だったらついて行っちゃうよ」と言ったら、凄く、嬉しそうな顔をした。
…ほら、こういうとこ。やっぱり女慣れしてる。
「…で、どうなの?冴木君とは」
昼休み。
茜が煙草を片手に、聞いてきた。
「どう」って何…
「あのさ、茜…。どうもなにも、私と冴木さん、別に何もー」
「甘いっ!いつ何があるか分からないでしょ!!だから聞いときたいの!」
「ふ、ふーん。でも何もないよ」
それを言うと、茜はつまらなそうに煙を吐き出した。
お、おーい。私達が何かないとつまらないのか…
「…だっては好きでしょ、冴木さん」
「だから!そういうんじゃないよ!冴木さんは優しい人だし、好きだけど」
「ほら、やっぱりね」
「ち、ちが…!そういう意味じゃな…」
顔を真っ赤にしている私を、茜は面白そうにからかう。
そんな事をしていると、携帯からバイブ音が聞こえた。
ゴソゴソ、と鞄から取り出すと、ディスプレイには、今噂をしている真っ最中の男性の人物が点滅していた。
「さ、冴木さん…」
「え!?うっそ!早くでなよ」
茜はワクワクと、身を乗り出している。
コクリと頷くと、通話ボタンを押した。
心拍数が凄い具合に上がっているのがわかる。
「…冴木さん?」
『ちゃん?ごめん、今大丈夫?』
電話で改めて声を聞くと、なんだか更に緊張する。
冴木さんは緊張なんてしないんだろうな…。
さすが、ナンパのプロ。
なんて言ったら、また怒られるかな。
「うん、平気。…なんかありました?」
『あー、いや、仕事でこれからちゃんの会社の方、行くんだけど。夕飯、外でどうかな。』
…え、あれ。…これって、一緒にってことだよね。
ー嬉しい。
でも、「嬉しい」とか言うわけにもいかなくて、何だか黙ってしまった私に、冴木さんは「都合悪い?」と遠慮がちな声を出した。
うわ、違う!ご、誤解…
「え、全然、何も用事ないんで!どこがいいですか?」
ああ、何て可愛くない返事するんだろう。私は。
もっとこう、もっと…なんかあるだろ、と思ったけど、何かあったって、私には言えない。
素直に、言えない。
『うーん、ちゃんの方が詳しいよね。どこでもいいよ、俺は。とりあえず時間…6時くらいにそっち行って大丈夫?』
「うん、大丈夫。じゃあ6時に」
OKという冴木さんの声が聞こえると、ピ、と電話を切った。
ああ、何だか凄い、緊張した。
ふぅと一息吐くと、ニヤニヤとした茜の視線にぶつかった。
た、楽しんでるな…。
「…なによ」
「なによ、じゃないわよもー!この子は!何!?ゴハンの約束?もうラブラブなんじゃない!」
ら、ラブラブ?は?
いつも家で一緒に食べる夕飯を外で一緒に食べるとラブラブに早変わりなのか…。
茜はバシバシと私の背中を叩いてくる。
…茜がわざと、盛り上げてくれようとしているのが分かった。
彼女は私の昔の事を知っているから、気を遣ってくれているのだ。
目を細めると、茜に軽く笑いかけた。
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