一通り笑って落ち着いたのか、冴木さんは「もう行くね」と背を向けた。
うーん、冴木さんの笑いのツボが分からない…
そんな事を思っていると、茜がこっちを見てニヤーっとしている。
…?何だろう。
「いいなぁ!鍵とか!同棲してるって感じで!」
羨ましい〜っ!とぶーたれる茜は、次の瞬間には瞳を輝かせて私の方を見た。
本当に、コロコ表情が変わって、面白い。
そうだ。私より茜の方が面白いと思うんだけど…
「ね!冴木さんてカッコイイじゃない!良かったね!」
「…へ?」
やっぱり、冴木さんは一般的に「格好いい」部類に入るらしい。
茜は結構、男のチェックは厳しいのだ。
歴代彼氏も、かっこいい人ばjかりで。その茜が言うのだから、間違いない。
「いいなぁ。、冴木さん好きでしょ?」
「…え、え?なんで!?」
は!?なんでそういう事になるの!?
冴木さんは話しやすくて、凄く良い人だと思う。けど…
恋愛とは、別で。
「…違うの?好きじゃない?」
「好きだけど、そういう好きじゃないよ」
そうだ。
そういう好きではないのだから、私はまだ大丈夫だ。
恋愛は、していない。
私は。
「じゃあ冴木さん、私が貰っていい?」
「…え?え!?なんで!?茜、彼氏と別れたの!?」
「うまくいってなくて、ね」
ドクン、と嫌な音がする。
心臓が痛い。本当に?
ーーー貰ってしまっては、嫌だって、思わなかった?
どうしよう。思った?私。
冴木さんに、そういう感情、持ってしまってるの・・・?
「・・・?も〜!そんな顔しないでよ!冗談!ウソだってば!」
「え?・・・嘘?」
キョトンと茜を見ると、茜はゴメンゴメン、と私に片手を出した。
「う・そ!彼氏とはラブラブだから!安心して」
ごめんね、ともう一回言われる。
「私は別に…」
茜が冴木さんを貰っても、気にしないよって言おうと思ったけど、何故だか口には出せなかった。
私が口を閉ざしていると、茜は眉を顰めた。
少し躊躇ってから、口を開く。
「…まだ、駄目?踏みとどまってる?」
茜は知っている。
昔の事を。
私が未だに、結婚できないのも。
一人でいいと思うのも。
茜だけは、知っていた。
「…」
困ったように笑うと、茜は泣きそうな顔をする。
そういえば、あの時も、茜の方が怒って、茜の方が泣いていた。
本当に、優しい子。
「茜がいてくれて、良かったよ」
そう言うと、更に泣きそうな顔をされた。
あれ、逆効果?
私より背が高い茜は、私の頭を自分の方に寄せてくれた。
ポンポンと、後頭部を撫でられた。
***
「遅いなぁ…」
10時を少し回ったが、冴木さんがまだ帰ってこない。
ご飯の支度をして待っているが、もしかしたらご飯はあっちで食べてくるのかもしれない、という事に気がついた。
…10時だったら絶対食べて帰ってくるに決まってる。
何で気づかなかったんだろう。
片付けようと思って席を立つと、チャイムが鳴った。
…冴木さんかな?
扉を開けると、そこにはやっぱり冴木さんが居た。
「ただいま、ちゃん」
「…おかえり…なさい」
て、照れくさい…!
「ただいま」と「おかえり」って凄い、恥ずかしい!
照れているのを冴木さんに気づかれないように、表情を作って冷静を装う。
リビングに入った冴木さんは、まず最初に用意してある食事に気がついた。
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