「アキラ君なんか好きじゃない!!」


「…っ!キミは…!何でそう素直じゃないんだ!!」


「私は素直なコト言ってるって!!」


「言ってない!!キミは確かに僕が好きだと、一週間前言っただろう!?」


そう、僕とさんは一週間前、両思いになった。
緒方さん経由で紹介されて、僕の方が好きになって、告白して交際が始まった。


さんはもともと人懐こい。
さっぱりしてて、グズグズした事が嫌いな強がりな人だ。
付き合ってからもその人懐こさは変わらずに、緒方さんや、院生の人達と親しげなものだから、少し怒ってしまった。

そうしたら、今度はさんが怒り出した。
そういう事で、今は喧嘩している。


「言った!!」


「言ってない!!」


「絶対に言った!!」





…キリがないやりとりが続く。




「しつこい!もうこれからはアキラ君のこと好きだなんて、絶対言わない!」



さんの言葉が僕の胸にグサっと刺さる。

さんのその言葉は以前『好き』と言った事を肯定しているものだけど、今度はこれから言わないと言い出した。
意地を張っているだけ、と、わかってはいてもやはり悲しい。


「…ならもう一度好きと言わせてみせる。」


その時、さんは何か思いついたらしく、僕の方を見てニヤっと笑った。


「じゃあ、ゲームやろう?」



「…ゲーム?」


「そ!私はアキラ君に、アキラ君は私を好きって言わせるゲーム」


「…また馬鹿なことを…」


ヤレヤレと額に手を当てると、さんは、はーっと息を吐き出す。


「ちょっとはのってよー…たまにはいいでしょ!こういうのも。」




「…何を企んでるんだ?」




「…アキラ君が負けたらラーメン、奢って?すっごい美味しいとこ見つけたんだけど、凄い高くってさー」


さんはその後も、そこのラーメンの美味しさについて延々と語りだした。
スープのダシがどうの、麺のこしが、等等、黙っていたらどのくらいの時間喋り続けるつもりなのだろうか。


「…わかったよ。やろう。でもどんな結果になっても、別れるなんて言い出したら…許さないからね?」


いや、もしさんが別れると言っても、離すつもりなど毛頭無い。


「言わない、そんな事!期限は今日含めて5日間!その間好きって言った方が負け!あ、後とか先とか関係なしね!とにかく言ったら負け!」


「わかった」


と、そこまで言って、肝心のさんの罰ゲームについて何も決めていなかった事に気づく。
奢って欲しいものも、高価な物も欲しくはないけど、やはりさんに、自分への愛は示して欲しい。



「じゃあさん。僕が勝ったら…」


ごにょごにlと、と耳元で囁くと、さんの顔はみるみる内に赤くなった。


「…アキラ君がそんなエロいとは知らなかった」



「…さんにだけだよ」


微笑んでみせると、さんは上目遣いに睨んでくる。
周囲からはとことんストイックに見られているのに、さんに対してのみは全く当てはまらないのだ。
勿論付き合うまでは、、自分の事を禁欲的だと思っていたが、もう今ではそのかけらもない。


時計が5時を指したその時、さんは急に慌てだした。


「あっ!やっば!もう帰んなきゃ!珍しくお母さん、外食しようとか言い出すんだもん…」


もう帰るのか…

鞄を背負い、玄関の方向へ行こうとするが、突然何か思い出したように振り返ると、さんはその腕を僕の首に回した。


「ん…」


ーえ?


いきなりさんからキスされた。
いつもは絶対に、こんな事は有り得ない。
僕からするばかりだったのに。



「絶対ラーメン奢ってもらうからね!」




混乱している僕に、さんはまるで、イタズラをした子供みたいに笑う。

こ、こういうのは、反則じゃないのか…!?



「じゃあ、またね」


「…さ…!」


呼びかけた僕の声など聞かずに、さんはさっさと部屋から出て行ってしまった。
僕は熱い額に手をやり、前髪を握る。






「…もう負けそうだ…」






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