さて。
困ったものだ。エドはロイの家に向かう途中、バクバクと、破裂しそうな心臓と戦っていた。
こんな様子のまま行くわけにはいかない。
こんなもので夜這い、などと、ロイのような慣れた男からしたらきっと、笑いものなのだろう。

(まいった…。緊張してんのか、俺…)

あのロイを夜這いして、その上、「好き」だと言わせなければならないのだから、こんな事じゃ駄目だ。
そう思ったエドは、冷えた空気を吸うと、それを再び、吐き出した。
唇を噛み、気合いを入れると、そのままロイの家まで走って行った。



もう、仕事も終わっているはずだ。
鐘を鳴らすと、ロイが屋敷の中から顔を覗かせた。

「ああ、待っていたよ。鋼の。入りたまえ」

余裕の顔を見せられ、エドの負けず嫌いの心に火がついた。
何としてでも、言わせてみせる。
固く心に誓うと、扉の中へと入っていった。

高い天井に、膨大な部屋数。
相変わらず広い屋敷は、ロイが一人住むのには少し、大きすぎるのではないかと思う。
ソファにどっかり座り、紅茶を啜るエドは、これから色気のある作戦をするような人物だとは、とてもじゃないが思えない。



「…で?君は夜這い、と言ったが」

「…ああ」

「それも、私に好きだ、と言わせる為にだろう?何か私を惑わすような戦略は心得ているのかね?」

「そんなもんない」

「………………」


あるわけがない。
これを決行する、という事だけで精一杯だったのだ。戦略など、考える余裕もない。
向かいの、同じ型のソファに優雅に足を組んでいたロイが、腰を上げた。
エドの方へと近寄ると、背もたれに腕を伸ばす。ギ、っと鳴ったかと思うと、瞳一面、ロイの顔で埋まった。

「では、私から攻めた方が?」

強く、しかし甘さを秘めた眼光が、エドを貫く。
経験と知識の豊富なロイの方が、完全に分があるのだ。
このままでは、完璧にロイのペースに引きずり込まれてしまう。
そんな不様な負け方はしない。決して。

どうする、どうする。





『うるんだ瞳に、はだけた服!色っぽくねだる仕草に甘えた声!…』


先日、ウィンリィの言った言葉。
いっそのこと、実行してみるか。うるんだ瞳に、はだけた服。色っぽくねだる仕草に、甘えた声。
勢い任せで、ロイが欲しいとねだってみるか。

(や、それは無理だろ…)

何かないものか。
何か、そう、何か。ウィンリィは他に何か、言っていなかったか。
言っていたはずだ。何か。とても大切な事ー…





『…ねぇ、エド。相手に好きって言ってほしいんなら、ちゃんと自分も、相手の事が大好きだって、伝えなくちゃ駄目よ』




そうだ。ウィンリィはそう言っていた。
それはとても、大切な事。それは分かっている。

だが、言ったら負けなのだ。


(…ー…・・・言わなければ、負け、じゃない?)


要は伝わればいいのだ。
相手に気持ちを伝える術は、言葉を紡ぐだけではない。
態度や仕草、表情全てに含まれるもの。

ロイが好きだ。愛してる。この気持ちは、紛れも無い事実。

それを、伝えなければ。




態度、仕草、表情、言葉以外の全てで。


(−…俺は大佐が、好きなんだから)


プライドも、羞恥心も、全て捨てて、欲してみればいいのだ。

それが一番の、戦術。










な、なんかロイがかっこつけて…汗



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