それを聞いた瞬間、思わず怒鳴ってしまった。
「…!どうしてそうなるんだ!!」
本当に、この人は困った人だ。
何という勘違いをしてくれるんだろう…。
どうやらさんは、僕がただ意地のみで、さんに好きと言わせたいだけだからだと…。
『手に入らない物ほど欲しくなる』みたいな、そんな事を言っているのだった。
あまりにも的外れな事を言うさんの体を、自分の胸から少し離し、その顔を見る。
…さんは、ほんの少し涙ぐんでいた。
「だ、だってしょうがないでしょ!アキラ君みたいな負けず嫌い、そうはいないよ!」
腕でぐしぐしと目を擦ると、すぐに僕を睨みつける。
自分の気持ちはこんなにも伝わっていなかったのかという思いもあったが、それ以上に、自分の事でさんが不安になっていたという事実が、僕には嬉しかった。
「…意地なんかじゃない。さんが好きだから…だから、さんにも言ってもらいたかった」
それだけだ、と一回離した華奢な体を、もう一度ギュっと抱きしめる。
すると、さんも僕の背中にぎゅっと手を回す。
少し赤い目を隠すように、僕の服に顔をこすり付ける。
小さく鼻をすすった音が聞こえると、その後『私が、好き?』という、か細い声が聞こえてきた。
「好きだよ」
その言葉は、ゲームの負けを意味していた。
だが、完璧にお手上げだったのだ。
さんにこんな顔をされて、こんな事を言われて、それでも好きだと言わない事など出来るはずがない。
「、さん…」
唇を合わせようと、愛しいその顔に近づけたのだが。
「やった――!!!」
抱きしめられていた体を自力で解放して、突然さんが大声で、バンザイのポーズをする。
嬉しそうにさんが笑っている。
さっきまでか細く自分に、好きかどうか聞いてきた、あのヒカルが。
…何が起こったんだ?
さんの変わり身の早さに、頭がついていかない。
「…あの、さん…?」
「アキラ君、ラーメン奢りね」
「…!!な…!え!?騙したのか!?」
「別に騙しててないよ。さっきは本当に泣いてたけど、アキラ君にラーメン奢ってもらえると思ったら涙止まっただけ」
あっけらかんと答えられる。いかにもさんらしい。
だけど。
さっきの…さっきのさんはどこにいってしまったのか、本当に嬉しそうに笑っている。
「……‥」
さんとは正反対に、僕はガクっと肩を落とし黙り込んでしまった。
「…あ、アキラ君‥?ご、ごめん…。…怒った…?」
流石にまずいと思ったのか、さんはビクビクと、僕の顔色を見る。
自分の顔色を伺ってくれるその態度に、気持ちも和らぐ。
「…僕の負けだね。ラーメン、奢るよ」
ところが。
僕が負けを認めたのに、さんはどういうことか、プイっとそっぽを向いてしまう。
「…さん?」
「…私、も…好き」
ーゲーム1日目の、さんの言葉は。
『期限は今日含めて5日間!その間好きって言った方が負け!あ、後とか先とか関係なしね!とにかく言ったら負け!』
“先とか後とか関係なし”
“とにかく言ったら負け”
つまり5日目の今日、好きと言ってしまえばどちらも負けなわけで。
「…私も負け」
そう言うと、何事もなかったかのように、くるりと振り返り、『早くラーメン食いに行こう』と、はしゃいでいる。
きっと、さんなりの照れ隠し。
「…さん」
さんの身体を、胸に抱き寄せる。
さんが愛しくてたまらなかった。
「…あーもう!早く行こうよ」
もがいて胸から抜け出そうとするけど、それを許さずにしっかり捕まえた。
「奢るよ」
「いいよ、私も負けたし」
「何杯でも奢るから、さんの方もちゃんと約束、覚えてるよね?」
それを言うと、さんは視線をずらし、ベチっと額を叩かれた。
「覚えてないデスよ!」
「…ズルイよ、さん」
「早く行こう?お腹減った!」
どんどん話題を変えられる。
…仕方ないか。
さんには、敵わない。
5日間のラブゲーム。
ゲームの結果は―
引き分け。
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