さんも僕も、コーヒーを一つずつ頼んだ。
カップがテーブルに乗ると、ほろ苦い香りが空気を包む。
一口啜って、カチャ、と置くその音が、気まずさを倍増させて、嫌な感じだ。
いつもはあんなに、さんと居るのが楽しい。
それなのに、今日は不安の方が勝っていて、僕は何も口に出来ない。
だけど、このまま不安な気持ちを抱えていたくもない。
「さん、話って…」
「……」
やっと話を切り出せた。
のに、さんは少し俯いて黙ったまま、僕の問いに答えようとしない。
ー言いづらい、事……?
さんの態度に、さっきより更に強く不安を感じてしまう。
「さん…?」
俯いていた顔を上げ、困ったように微笑むと、さんは「やっぱりここ、出よう」と言った。
その発言に、ああ、やっぱり言い辛い事だったんだ、と思った。
そしてそれが、僕の予想通りの言葉になってしまう事を予感させた。
伝票を持って会計をしようとすると、さんが財布を開ける。
さんが財布を開ける。
コーヒー二つくらい、いいのに。
さんは本当に、そういう面で僕に頼るのが嫌みたいだった。
僕はもっと、頼ってくれてもと思うけど。
だけど、そういう所も好きで。
ああもう、どうしようもないー…
喫茶店を出て、僕の家に行く事になった。
案の定、口が開かなくて、トボトボと二人並んで歩いているだけだった。
家に着くと、部屋にさんを残し飲み物を用意しようと部屋を去ろうとした。
だが、さんが「いいよ、さっきコーヒー飲んだから」と僕を止めた。
それもそうか。
少し開けていた扉を閉めると、そこは完全に密室になった。
…気まずい。
目線を泳がせていると、さんが口を開いた。
「アキラ君さー…負けるの嫌いだよね…?」
「…は?」
「…負けず嫌いだよね」
「…そりゃ…勝つ方がいいに決まってるだろう?」
僕がそう言った瞬間、さんは更に俯いてしまった。
一体、何が言いたいんだろうか。
僕にはさんの言いたい事が全く分からない。
さんらしくない、と思った。
いつも単刀直入に言葉を吐くさんが、何をこんなに不安気に、遠まわしに言っているんだろう。
…何が彼女を、そうさせているんだろう。
「だから…私に好きって言わせたい?」
声が。
少し震えてる…?
それに気づいた僕は、さんの背中に腕を伸ばし、優しく抱きしめる。
細すぎる体も、やはり少し震えている。
「さん…?何が言いたいのかわからない」
「…私がなかなか好きって言わないから、私に好きって言わせたいの…?」
「……え…?」
まだ、さんの言葉を理解できない。
何か言いたい。
だけど下手な事を言いたくない。
僕は仕方なくさんの次の言葉を待つ。
「アキラ君…私が好きって言わないから…だから…ただ意地になって好きって言わせたいだけなんじゃないの?」
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