エドと同棲してから、もう1年。
もうずっと平穏で幸せな日々が続いていたし、これからもそうだと思っていた。
しかし、エドの一言で、状況は一変する。
それは二人が夕飯を食べている時。
口に食べ物を含ませながら、エドが何気なく話を切り出した。
「そうだ。言うの忘れてた」
「なんだい?」
「働く事になった」
「・・・何処でだね」
「ロイが先生やってる学校」
「・・・は・・・?」
・・・幸せで穏やかな日々が、波乱の日々へと変わる幕開けであった。
☆
ロイが教員として勤める海陽高等学校は、全国で有数の進学高だ。
普通、進学、特進とあるクラスの中で、ロイは特進クラスの担任を勤めていた。
しかし、去年からポツポツと進学クラスから自主退学者が出てきてしまったのだ。
理由はさまざまだが、担任の目が行き届いていないせいだと判断した校長は、特進クラスまでそんなことが起きないようにと、進学、特進クラスには担任とはまた別に一人、『副担任』をつけることにした。
そしてそのロイのクラスの副担任に、エドが採用されたのだった。
そして
エド・副担任初日。
「今日からこのクラスの副担任になられたエドワード・エルリック先生だ」
「それじゃあ、エルリック先生…」と、ロイが自己紹介するように促すと、エドの顔に緊張が走る。
相当緊張しているらしく、少し俯いている。
「はじめまして。今日からこのクラスのー…」
緊張と戦いながらも、段々と上を向き、元気に話すエドに、女子はもちろんのこと、男子までもがざわついていた。
小柄な体型に、金髪の三つ編み。
後ろから見れば、女子と見間違いそうな。そんな風貌だ。
ざわつく生徒を、ロイが一睨みすると、教室は静まり返った。
自己紹介が終わり、ホッした表情でエドがロイに視線をなげると、ロイは優しく微笑んだ。
そして今度は、生徒を二人起立させる。
「このクラスの学級委員だ」
ロイが紹介すると、綺麗な長い金髪の女の子が、頭を下げた。
「ウィンリィ・ロックベルです」
そしてもう一人。
男子の委員であるはずの黒髪の少年は、なかなか頭を下げなかった。
下げなかった、というより、下げるのを忘れているみたいだった。
ただエドを、じっと見ていた。
するとエドが、その少年に向かって何やらジェスチャーで指示を送る。
『自己紹介!』
そう言っているようだった。
すると、やっと少年は口を開いた。
「エンヴィー、です」
不敵な笑みを浮かべ、エンヴィーが頭を下げると同時にチャイムが鳴り、HRは終了となった。
☆
「久しぶりだね、おチビさん」
HR終了後、一番に話しかけた生徒は、エンヴィーだった。
「びっくりしただろ!」
エドとエンヴィー。
血は繋がっていないものの、二人は兄弟なのだ。
エドの父親と、エンヴィーの母親が再婚した為、二人は一つ屋根の下で暮らしていた。
しかしどういうわけか、エンヴィーは、「一人暮らしがしたい」と、家を出てしまったのだ。
エドは不思議で堪らなかった。
だが、そのことはいくら聞いても、エンヴィーは教えてくれなかった。
その間、度々連絡を取っていた二人だが、この高校に来る事は黙っていた。
エンヴィーを驚かせたかったのだ。
「案内してあげようか」
エンヴィーが微笑んで言い出すと、エドは快くOKした。
「ああ、うん!頼む。昼休みにでも案内…」
『案内してくれ』
エドがそういい終わらないうちに、背後からロイの腕がエドの首に回り、羽交い絞めにするカタチでロイの方へと引き寄せられた。
「エルリック先生には私から案内しておく」
ロイとエドの関係を、エンヴィーは知らない。
エドとエンヴィーの関係も、ロイは知らなかった。
ただ、自分の恋人であるエドと親しげにする一生徒としか映っていなかった。
エドの腕を掴むと、ロイは教室を出ようとする。
エドの方は、まだエンヴィーと話していたいという未練があったが、授業が始まってしまってはマズイと思い、そのままロイに着いて行った。
|