昼休み。
結局、ロイ・エド・エンヴィーの3人で、校舎を回ることになった。
図書室、音楽室、保健室、といろいろな教室を案内してもらい、最後に一つの教室に行き着いた。
そこ教室のドアには、『未使用』とかかれた札がぶら下がっていた。
「ここは相談室」
ロイはそう言うと、ガチャっとドアを開ける。
ソファとテーブル、壁には絵が掛けてあったりと、綺麗な部屋だった。
学習机もチラホラと置いてある。
「生徒が相談のある時にしようしたり、空いてる時は教師が休んだり、生徒の自習に使ったりしている」
「へー…」
エドがキョロキョロと室内を見回していると、エンヴィーが相談室の説明を付け足した。
「別名、説教部屋でもあるよね」
「…ヨキ先生がお前に説教をした、と言っていたな。どうも女遊びが激しいようだが」
ヘラっと笑っているエンヴィーに、ロイも何でもない風に、サラリと言ってのける。
「うわ、やだね〜!自分がモテないからって嫌味言うオッサンは!」
ロイとエンヴィーの会話を、エドは特に驚くでもなく、聞いていた。
確かに、エンヴィーは一緒に住んでいた当時も、女の遊びは激しかったように思う。
ただ、一回も取り乱した様子を見たことがない。
本当に「遊び」のようだった。
「別に女が好き、とかいうんじゃないんだけどね」
エンヴィーが、どこか意味深な言葉を呟く。
「じゃあ、何だよ?」
前々から気になっていた。
すかさずエドが質問すると、エンヴィーは少し答えるのを戸惑っているようだった。
だが、いつもの笑みを浮かべると、口を開いた。
「退屈、だから」
そう答えるエンヴィーの様子に、少し違和感を覚えたが、何も言わずにいた。
***
午後の授業も終え、放課後。
ロイは女生徒に相談があると言われ、教室に呼び出された。
まだもう少し、校舎を見ておきたかったエドは、待っているとロイに告げた。
ロイを待つ間、校舎を見て回ったが、さっき案内もしてもらったうえ、特に複雑な構図でもなかった為、すぐに覚えてしまった。
ロイはまだ戻ってきていないようだ。
仕方なく、職員室内にある休憩室に行くと、そこには男が一人、煙草を銜えていた。
黒髪で、顎にはヒゲが伸びており、眼鏡をかけている。
「よう、新米」
「…どうも」
片手を上げられ、人の良さそうな笑みでエドに挨拶をする。
「えーと…」
「マース・ヒューズ。化学担当だ」
眼鏡を直しながら言うと、背広の胸ポケットから何かを取り出した。
「そんでこれが、娘のエリシアと、妻のグレイシアだ」
「は、はぁ…?」
「かっわいいだろー?エリシアの、このほっぺを見ろ!」
デレデレと鼻の下を伸ばしながら、娘の魅力について語りだす。
妻の魅力も存分に語ろうとしたその瞬間、休憩室の扉が開かれた。
「エド。やはり此処に…」
エドの姿を見つけたロイは、もう一人の人物を見て眉を顰めた。
「…ヒューズ。また家族自慢か?」
「おう!まだコイツには話してないしな」
そんな事を言うヒューズだが、一度話していようが、話してなかろうが、そんな事おかまいなしに家族自慢をする。
この男の話に付き合っていたら、帰るのが何時になるのか分かったものではない。
一つ溜め息を零すと、ロイはエドの腕を取った。
すると、ヒューズは待ったをかけた。
「おいおい、ちょっと待てよ。エド、どうだ?お前の親睦会も兼ねて、今夜飲みにでも…」
「断る。ヨキでも誘え」
ヒューズの誘いに、エドでは無く、代わりにロイがキッパリと断りの言葉を吐く。
もう一刻も早くここからエドを遠ざけたい、というのがロイの心情だった。
それでなくても昨日は『明日から初仕事』という理由で、夜もおあずけを食らわされたのだ。
これで飲みに行く事にでもなったら、ヒューズの家族自慢に朝まで付き合わされる事は必至だ。
それだけは何とか、避けたかった。
「お、おい!!」
グイっと手を引っ張り、ロイは強引に、エドを連れて部屋を後にした。
「…あのロイが、なぁ…」
一人残されたヒューズは、静かに呟いた。
☆
「…なんで断ったんだよ。明らかにアンタの態度、おかしかったぞ」
「…君はそんなに、ヒューズと飲みに行きたかったのか?」
夕飯の席で、エドは今日のロイの態度について、文句を垂れる。
別にヒューズと飲みに行きたかった訳ではないが、断るにしろ、もう少し言い方があったし、あの態度はないと思った。
ロイの作ったリゾットをぐちゃぐちゃにしながら、ロイを睨む。
「そういう事じゃねーよ。でも悪いだろ?折角親睦会、開いてくれるってのに」
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