「悪かったかな−。どうだろう」
忘れちゃった、と再びエドの方を見て笑う。
本心を見せようとしない、表面だけの笑み。
心は無償に寂しくなる。
「…あっそ」
「…何?おチビさんは俺が出て行っちゃって、寂しかったの?」
からかうように口にすると、ヨシヨシとエドの頭を撫でた。
バっとその手を振り払うとまつげを伏せた。
『そんなわけないだろ!バーカ!』
すぐにそういう答えが返ってくると思っていた。
しかし、エンヴィ−の予想に反して、エドは口を閉じたまま、話そうとしない。
しかし、少し間をあけて、ポツリ。
「…そりゃ…何とも思わないわけ、ないだろ」
遠回しに『寂しくないわけがない』という意味を含む返答がきた。
ポカンとエドを見ると、エドはエンヴィ−とは逆の方向に、顔を向けた。
「………」
…意外だった。
まさかこんな反応が返ってくるとは。
何かを抑え込むように、エンヴィ−は拳をぎゅっと握りしめた。
そしてそれをやんわり緩めると、再度エドの頭に触れた。今度はエドも拒まない。
「…馬鹿だね、おチビさん」
俺の事なんか気にしないで忘れればいいのに。と、困ったような、でも嬉しそうに微笑む。
「…好きで気にしてるわけじゃねーだろ、こういうのは」
寂しいと感じてしまう。
それは自然に。
視線は下を向き、それ以上言葉を出さない。
本当に、馬鹿な事を言うと思った。
こんな表情、見せて欲しくはないのだ。
「そんな顔してそんな事言ってると、いつかさらわれるよ、おチビさん」
「なんだよ、それ」
わけわからん、とそっぽを向くと、「おーい!」と甲高い声が聞こえてきた。
ウィンリィだった。
息を切らし、こっちに駆け寄ってくる。
するとエンヴィーがすっくと立ち上がった。
「じゃあね、おチビさん」
「お、おい!」
ひらひらと手を振ると、その場を離れた。
ウィンリィが来た頃にはもう、すっかり小さくなった背中が見えた。
「先生!…あれ?エンヴィーは帰っちゃったの?」
「…ん。用事、あるらしい」
「…今イチ、掴みどころのない感じするのよねー」
眉間に皺を寄せ、うーんと唸るウィンリィの言葉に、エドも納得できた。
エンヴィーの考えることは、全く予想が出来ない。
兄弟なのに…と、少し寂しく感じるが、それでこそエンヴィーか、とも思う。
何故、家を出たのか。
…いつか分かる日が。
いつか話してくれる日が。
ー来るんだろうか。
話しこんでいた為、すっかり遅くなってしまった。
ロイの機嫌はきっと最悪になっているだろう。
それを思うと、目の前の扉を開くのが恐ろしかった。扉から、負のオーラが出ているような気さえする。
そうっとノブに手をかけ、覚悟を決めると扉を引いた。部屋の中には案の定、不機嫌ですと顔に書いてあるようなロイがビールを口にしていた。
「…ただいま」
「随分長い買い物じゃないか?」
「…悪い。すぐ何か作る」
キッチンへ向かおうとすると、ロイも席を立った。
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