私がこの世で一番嫌いなもの。








それは貧乏。






愛?





心?






くだらない。







貧乏人を幸せにしてくれるのは、お金。







お金だけだ。










***





カタカタカタカタ、と、私は今日も熱心にパソコンに向かっていた。
昼休みだというのに、手は全く止まることが無い。
せっかく大手企業に・・・
金持ちになる為のチャンスを得たのだ。
頑張らなきゃ。

1年前に家を出て、都心の方へ来たのは勿論、お金持ちになる為。
周りは森や林しかなく、ビルなんてもってのほかな田舎の実家。
毎日、少ししか食べられない食事に、大勢の兄弟。
小さい頃はよくおかずの取り合いで喧嘩もして。

そんな惨めな生活が嫌で、毎日毎日、お金持ちを夢見ていた。
都心に来て大手企業に入ったのはいいものの、一つ、困った問題があった。

この容姿。

この容姿のおかげで、社会に出てから、異性はよりどりみどりだった。
少し笑いかけるだけで、何でも買ってくれる社長や、同期の男性社員の贈り物。
最初は驚きもしたが、こういう稼ぎ方もあるのだと学習していった。

自分の武器は、この容姿だけ。
金持ちになる鍵は、この容姿にある。


カタカタ、とキーボードを打ち続ける私の後ろからニョキっと現れたのはー。


先輩!明日合コンあるんですけど。行きますよね?」


彼女は奈瀬明日美。
私の良き理解者だ。


合コン。
それは男女の出会いの場。

お金持ちの男を捕まえる為には欠かせない。

実家に居た頃には、合コンなんて、言葉自体知らなかったのに、今はもう慣れたものだ。
「合コンの女王」とまで呼ばれるようになった。


「…メンツは?」


「お医者様です」


手に名刺を広げると、私の前に差し出す。
パっと名刺を奪い取ったけど…。

駄目だ。


「勤務医〜!?年収は…うわ!コレじゃサラリーマンに毛の生えたようなもんねー…」


無理、と名刺を返すと、明日美ちゃんは両手を合わせてお願いのポーズをしてみせる。


「お願いしますっ!その人の友達に、私のタイプな人がいるんですよー!先輩連れてくるって条件で合コンセッティングしちゃったんですから!」


お願いお願いっ!と、明日美ちゃんは必死にに頼み込む。
私は再び溜め息を漏らした。
あまり気は乗らないけど、仕方が無い。
明日美ちゃんは、可愛い後輩だし。


「…わかったわ、行く」



溜め息交じりにそう答えると、明日美ちゃんは一気にパァっと明るい顔になった。




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