「あ、ヤベ」
翌日の昼休み。
私はカップラーメンを啜る口を止めた。
こんな姿を見たら、誰だって「合コンの女王」なんて信じない。
でも、食べ物になんて、お金をかけている余裕はない。
服。
容姿。
金持ちの男を捕まえるには、そっちの方にお金をかけなければならないのだ。
「今日、塔矢君と約束してた…」
「えー!?」
明日美ちゃんも、眉間に皺を寄せる。
『塔矢アキラ』
大病院の息子で、私の恋人。
顔もかっこいいけど、正直、顔とかはどうだっていい。
お金さえ、あるんだったら。
そう。お金だけ。
「…合コンなんて止めて、塔矢さんで手ェ打っておけばいいじゃないですか?」
「…あのね。明日美ちゃんが誘ったんでしょ?今日の合コンは」
反論すると、明日美ちゃんはうっ!と口を尖らせる。
合コンは止められない。
もしかしたら、塔矢君よりお金持ちの男が、今夜現れるかもしれないのに。
そう思うと、どうしても。
それに合コンをする前に、いつも思う。
『今夜、たった一人の人と巡りあえるかもしれない』
小さい頃、よく夢を見ていた。
貧乏の中から迎えに来てくれる、たった一人の男性。
小さい自分に手を差し伸べ、いつもこう言うのだ。
『泣かないで。いつか必ず 迎えにくるから。
君の辛かった事、全部忘れられる日が、来るから』
顔はどうしても、逆光で見えなかった。
何回夢を見ても、だ。
「…誰なのかな、あれ」
「?…今日の合コン8時からでえすけど…何とか来れませんか?」
「ん、大丈夫」
塔矢君とは少し会って、途中で合コン会場へ向かえばいいのだ。
もう何回かこういう経験はあった為、慣れきっていた。
自分で言うとアレだけど、塔矢君は私に甘い。
『帰りたい』といえばその場で帰れるし、『欲しい』と言えばその物を探し出して贈ってくれる。
元々、フェミニストな部分があるからなんだろうけれど。
ズルズルとラーメンを啜り、露まで一気に飲み干すその姿に、明日美ちゃんは呆れた顔をする。
「あーあ…。先輩のこんな姿、塔矢さんが見たら泣きますよ」
「見せないから大丈夫」
「…そうですか」
****
『大丈夫』
その言葉通り、私はちゃんと、時間通りに合コンの会場へ着いた。
化粧室へ行くと、明日美ちゃんと、その友達のあかりちゃんの話し声が聞こえた。
「ね、あかりちゃん。先輩、なに着てくるかな」
「うーん…なんだろう…。」
二人は、ディオールだ、エルメスだ、と話している。
化粧室にカツン、というヒールの音が響かせると、二人ともこっちを振り返った。
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