「−…?何スか?」

放課後の屋上を、夕焼けが照らす。獄寺君も、染まっている。
視線を送っていると、獄寺君は首を傾げて、オレに微笑みかけた。
慌てて、パっと向き直る。
「なんでもない」と言った声が、おかしかった。おかしなトーンの声が出た。

…どうしよう。どうしたらいい?
オレ、何もあげられるもの、ないよ。
獄寺君、どうしたら分かってくれるんだろう。

愛情表現。態度で、示す。


態度、で。



「獄寺君ごめん」

「はい?」

「ちょっとここ、寝て」


言うと、獄寺君は素直に、冷たい地べたに仰向けになった。
本当に、獄寺君はオレの言う事を、ちゃんと聞いてくれる。
それなのにオレは、獄寺君の望みの一つも、まともに叶えてあげられてない。

「−…10代目?」

心底不思議そうな視線と声を受けながら、獄寺君の身体の上に乗る。
緊張、する。
まさか獄寺君を押し倒す日が来ようとは、思ってもみなかった。

ぎゅ、と唇を結ぶと、獄寺君の顔に近づく。
軽く、唇を合わせると、鼓動が早鐘のように鳴ったのが分かった。
どうにかなってしまいそうだ。
キスなんて、まだまだヘタクソ。それでも、獄寺君と付き合いだしてからは、随分慣れた。
だけどやっぱり、獄寺君の方がウワテで。
後頭部を抑えられると、ぐっと、深く口付けられた。

「…ん、…っ」

うわ、やっぱり駄目だ。オレの方が、流される。これじゃ、いつもと変わらない。
散々、唇を合わせた後、息を切らして獄寺君と瞳をぶつからせると、獄寺君は嬉しそうに笑った。


「−…10代目からしてくれるなんて、初めてっスね」

「…まさか獄寺君を襲う日が来るなんて思わなかった」

「いつでも大歓迎ですよ。…この後、どうしてくれんですか?」


言われて、ギクリと肩を揺らした。
ー…どうしよう。この後。この後?
獄寺君は、どうしてくれていたっけ。

ああ、まず服を脱がさなきゃ。


獄寺君のシャツのボタンに、手を掛ける。ガタガタと、異常に震え出す指。
上手く、外せない。
ボタン一個外すのに、こんなに苦労した事はない。
まだ、もたついているオレの両手を、そうっと握られる。
オレの上に手を重ね、一個一個、オレの指を操って、自分のボタンを外していく。


「…獄寺君が自分で外した方が早いね」

「10代目が脱がしてください」


だからそれが恥ずかしいんだよ…。
キスするより、ボタンを外す行為の方が、何倍か恥ずかしいような気がして堪らない。
それでも何とか、ボタンを外した。

露になっていく、獄寺君の肌。

頭がグルグルして、心臓の音が、おかしい。おかしすぎる。早い。響く。
カアっと、頭に血が上って、何もできなくなった。
眉を寄せて、顔を俯かせる。獄寺君を、見れない。


「−…ごめん…。ここまで」

「…はい」


やっぱり駄目なオレ。
だけど獄寺君は、笑っていた。本当に嬉しそうに。
オレにとっては、ここまでやるのは、物凄く、勇気のいる事だった。
それが、分かっていたから、笑ってくれているのかな…。

とにかく安心して、安心した途端に、ドロンとした眠気が襲ってくる。

だって昨日は、よく眠れなかったから。

凄く、眠たい…。




ねむ…。


ボスリと獄寺君の胸に顔を埋めると、目を瞑った。


「いいっスよ、こっからはオレがー…って、え?10代目?」


そっから先は、記憶が無い。
だから、獄寺君が押し倒そうと体制を変えようとしたのも、知らない。その前に意識は飛んでしまったから。

目を覚ましたのは、どっぷりと暗くなってからだ。
獄寺君はその間、ずうっと動かないでオレの布団役をやってくれていたらしい。

ーごめん、獄寺君。心の底から、謝った。

獄寺君によると、オレは相当気持ち良さそうに寝ていたらしい。熟睡だ。
そりゃ、昨日は全然眠れなかったけど…。


ああ、でも。



「今日はオレの家、泊まってってくれますよね!」

満面の笑みの獄寺君。


ー今夜も眠れそうにない。





3000打&お引越しお祝いのお礼、ということで権さんに捧げましたvv
甘い獄ツナ、というお題を頂いたのですが、少々甘すぎた。ような<少々じゃ ない
なんだやたら長いのにこんなお話ですが…><あわわ…
権さん、貰ってくださってどうもでしたーvv


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