追いかけっこ・1












望むなら。
地位も名誉も女でさえも、全ては手の中に。

しかし。
本当に欲しいものは、簡単に手が届かない場所にある。

どうしても、欲しい。



追い掛けるなんて、自分の性分でなくても。







‥‥







広々とした、司令部の一室。大量の書類を片付けていると、嫌でも頭に浮かんでくる。

一人の、少年の事が。



なかなか顔を出してはくれないくせをして、会えばいつもつれない態度。

そうしていつの間にか、立ち去ってしまうのだ。

いつも自分の頭を悩ます彼、エドワード・エルリック。
彼はそういう少年だ。

一人になると必ず漏らしてしまう溜め息に頭を抱えながら、書類に目を通していると、扉を叩く音がした。
ガチャ‥

許可を待たずして開かれた扉の向こうに居たのは。



エドワード・エルリック。
その人だった。


「大佐、久しぶり」


「…鋼の」


いたずらな笑みを浮かべているエドに、一瞬、間の抜けた顔をしてしまったんじゃないかと思う。
あまりにも突然に、あまりにも軽く現れるものだから。


「…久しぶりだね。何かこっちの方に用があったのかい?」


そうでも無ければ、わざわざ来たりはしないだろう。
そんな事は分かっていた。


自分で思って、虚しくなる。
エドにとって、いかに特別でないかを思い知らされてしまう。


「ああ、ちょっと調べものをね。でさ、司令部にちょっと居座りたいんだけど」

勿論、大佐であるロイが許可さえくれれば、ここに留まる事など安易い。
しかし、ロイは。


「…駄目だ」

「い、いいだろ!?長くて一週間くらいなんだから!」

「…私の家に来ないかい?」

「…はぁ?」


良く分からない事を言ったと思う。
大体にして、恋い焦がれるこの少年と一つ屋根の下で、自制が効くかも分からない。


「いや、でも…」

迷っているようなエドに、アルが嬉しそうに声をかける。

「兄さん、大佐の家だって!」

「あ、あぁ…」


行きたそうにしているアルを見て、エドは頷いた。
アルの事となるとどうしても、エドは甘い。
彼にだけは全てを許し、その望みを全て叶えてやりたくなるのだ。


「決まりだな」


いつも通りの笑みを浮かべると、ロイはまた仕事に取り掛かった。






仕事も終わり、家へと案内する。
ロイの家を初めて見た二人は、目を釘ずけにされていた。
エドはあんぐりと口を開き、アルは呆然と見入っている。

「どうした?」

「…いや、大佐だけあってでかいと…」

目を丸くさせて素直な感想を言ってのけるエドが可愛い。
目を細めると、ロイは二人を室内へと促した。

中に入っても、やはり豪華な雰囲気は崩れないでいた。

エドとアル、各々一部屋ずつ案内される。
7時になったら下に降りてくるように命じられた。

馬鹿に広い部屋で一息つき、アルを誘って下へ降りると、数々の料理がテーブルに並んでいた。

「夕飯にしよう。かけたまえ」

いただきますを言うと、エドはガツガツと料理を口に放り込み始めた。

「大佐が作ったの?」

「どうだい?」

「普通」

確かに周りからも、「普通」だの「美味くも不味くもない」と言われる事が圧倒的に多かった。

「…明日からは出来合いの物にした方が良さそうだな」

わざと少し怒ったように言うと、エドは笑って訂正し出した。

「ウソウソ!美味いって!」

良く食べている所を見ると、不味くはないのだろう。しかし、美味くはないだろうと、自分でも思う。


「俺は結構好みだよ」

フォローなのか本音なのか分からないが、確かにこの少年は美味しそうに食べる。
その姿を見て、微笑ましく思った。
彼が居ると、その場の雰囲気がパっとする。
自分の欲目だけでなく、そうだと思う。


「‥‥で?俺に借り作って、大佐は何企んでんだ?」

「人聞きの悪い事を言う。別に何も企んでいないのだが」


企んではいないが、下心はある。







あーあわわわわわ…(適当すぎてイタイー!)



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