これを期に、彼との距離が少しでも縮まれば。
そう思った。
しかし、同時に不安でもあった。
今までは自分から求めなくとも、手に入った。
もしくは、少し言い寄れば。
だが、エドは違うのだ。
男。
子供。
年だって。
今までとは違う。
何より、自分の気持ちが今までにないものだった。
今までのようにはいかない。
拒否される事を思うと、簡単には、手が出せない。
しかし、彼を欲しがる欲望は溢れ返りそうで。
<参ったな‥>
そんな事を思っている間に、エドはすっかり皿の中を空にした。
ごちそうさま、と、食器を持って満足気に席を立つと、ダイニングではなく、何を思ったのかロイの側までやって来た。
「大佐の髪って真っ黒だな」
照明に当たっても漆黒の色を失わないその髪に、エドはほんの微かに触れた。
瞬間、ロイは僅かに肩を上げ、エドを見上げた。
「口、ついているぞ」
「え?…ああ」
ゴシゴシと口元を擦ると
、ロイがちょんと己の頬を突いた。
「…違う。反対だ」
エドの方に手を伸ばすと、口元に付いた食べカスを親指でそっと触れた。
「サンキュ。アル、行こう」
照れたような表情を一瞬だけ見せると、ぐるんとロイに背を向け、食器を運んだ。
アルと共に二階へ上る音が響く。
ロイは額に手をやると、溜息を吐いた。
彼との距離は、縮まるのだろうか。
そして今夜は、
眠れるのだろうか。
***
深夜3時過ぎ。
…案の定、眠れてはいない。
一人の少年が、同じ屋根の下に居るというだけで。
この胸のたかぶり。
目をつぶってみても、自然と頭に浮かんできてしまう。
もう今頃は、眠っているんだろうか。
一層の事、夜ばいにでも行ってしまいたい。
<…馬鹿な>
何を考えているんだ、と自己嫌悪し、今度こそ眠ろうと目を閉じた。
しかしその時、ギイ、と扉を開く音がした。
その音の少し後。
声がした。
「…大佐?」
視界に入ってきた人物に、驚きを隠せなかった。
自分を眠れなくさせていた少年だからだ。
「…どうかしたかね?」
「ああ、うん。トイレどこ?」
暗いわ広いわで、迷ってしまう。
時間が時間なだけに、ロイはもう眠っているだろうから自分で探そうと思っていたが、部屋から物音がしたものだから、扉を開けてみたのだ。
ロイは起きていた。
「…大佐、眠れねぇの?」
「…ああ」
君のせいでね、と心の中で呟く。
「恐い夢、見たとか?」
「…そんな所だ」
茶化すように尋ねるエドに、ロイは引きつった笑みを浮かべた。
恐い夢ではなく、不埒な夢なら見た。
相手は勿論、女ではなく。
目の前にいる、この少年だ。
夢がもし、現実になったなら。
そうしたら、どんなに―。
…何を考えているのか。
彼をこのまま此処に置いておくのは危険だ。
ああ。でも、少し、少しだけ。
少しだけ、触れてもいいだろうか。
少し、だけなら。
駄目だ、止めておけ、益々眠れなくなる。と、頭では止めた方がいい事は理解していた。
大体『少し』で我慢できるはずもない。
それでも。
手が勝手にエドの方へ伸びていく。
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