「…トイレ。どこ?」
いつまでたっても答えないロイに焦れて、再度エドが聞き直す。
その言葉と同時に、空を迷っていた腕を降ろした。
正直、危なかった。
<…触れて、私は鋼のに何をするつもりだったんだ…>
歯止めの利かない感情が、恐ろしかった。
トイレの位置を簡単に説明すると、追い出すようにエドを扉の外へ出した。
そうして一息吐くと、明かりを消した。
今度こそ眠りに入ろうと思っても眠れない。
やっと眠れた頃は夜明けに近くて。
しかも見た夢は、また、エドへの欲情に満ちた夢だった。
***
翌朝−‥
「‥さ、大佐っ!起きろよ!」
ぼんやりと目を開けると、夢に出てきた少年が居る。
<…何故…?>
まだ完全に目が覚めていない為、頭が働かない。
何故エドがここに居て、しかも自分を起こそうとしているのか分からなかった。
ただ嬉しかった。
こんなのは、夢にまで見た光景だ。
「‥の」
ロイが小さく『鋼の』と呼んだ。エドは側に寄って、起こす為に頭でも叩こうかと思ったのだが。
「何だよ…っうわ!」
腕をひっぱられ、抱きくるめられた。
「ちょ…っな…っ」
あわあわとパニックになりながらも、抵抗してみせるが、更に強く抱きしめられた。
仕方ない、少しだけ大人しくしていようと、抵抗を止めたが、ロイの腕の束縛はちっとも緩くならない。
「大佐…!離せって!」
呼んでも離す気配がない。
「…ロイ!」
エドが名前で呼ぶと、ぼんやりと、ロイは閉じていた瞳を再び開けた。
そしてまた、消え入りそうな声で、エドを呼ぶ。
「…鋼の」
「なんだよっ」
離せ、と言おうとすると、ロイの口から微かに、何か聞こえた。
「……?」
耳を澄ます。
だが、エドが聞き逃した言葉を、ロイは再び言おうとしない。
「‥ロイ」
もう一度、名を呼んでみた。
すると。
「‥…ド」
「は?」
「‥エドワード」
ロイが口にしたのは、確かに自分の名前だった。
何なんだろう。
そう思っていると、また何かボソボソと聞こえた。
拘束が緩んだと思うと、ロイの腕は宙を舞っている。
何かを探しているようだった。
「‥‥?」
「‥‥お」
良く聞こえなくて、ロイの顔の方へ近づけた。
すると、ロイの手が頬を掠った。
またロイの口が微かに開き、言葉を発した。
『顔』
ロイは確かにそう言った。
「はぁ?意味わかんね…」
今度は唇にロイの指が触れた。
エドの「顔」を見つけたロイは、エドの後頭部を引き寄せる。
唇が重なった。
「ぅん…!?」
一瞬、頭が固まってしまった。
時間も、止まった。
何が起きているのだろう?
我に帰り、胸を押し返す。
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