追いかけっこ・3







「…トイレ。どこ?」

いつまでたっても答えないロイに焦れて、再度エドが聞き直す。
その言葉と同時に、空を迷っていた腕を降ろした。

正直、危なかった。

<…触れて、私は鋼のに何をするつもりだったんだ…>

歯止めの利かない感情が、恐ろしかった。

トイレの位置を簡単に説明すると、追い出すようにエドを扉の外へ出した。


そうして一息吐くと、明かりを消した。
今度こそ眠りに入ろうと思っても眠れない。
やっと眠れた頃は夜明けに近くて。
しかも見た夢は、また、エドへの欲情に満ちた夢だった。






***





翌朝−‥


「‥さ、大佐っ!起きろよ!」

ぼんやりと目を開けると、夢に出てきた少年が居る。

<…何故…?>

まだ完全に目が覚めていない為、頭が働かない。
何故エドがここに居て、しかも自分を起こそうとしているのか分からなかった。
ただ嬉しかった。
こんなのは、夢にまで見た光景だ。

「‥の」

ロイが小さく『鋼の』と呼んだ。エドは側に寄って、起こす為に頭でも叩こうかと思ったのだが。

「何だよ…っうわ!」

腕をひっぱられ、抱きくるめられた。

「ちょ…っな…っ」

あわあわとパニックになりながらも、抵抗してみせるが、更に強く抱きしめられた。
仕方ない、少しだけ大人しくしていようと、抵抗を止めたが、ロイの腕の束縛はちっとも緩くならない。

「大佐…!離せって!」

呼んでも離す気配がない。

「…ロイ!」

エドが名前で呼ぶと、ぼんやりと、ロイは閉じていた瞳を再び開けた。
そしてまた、消え入りそうな声で、エドを呼ぶ。


「…鋼の」

「なんだよっ」

離せ、と言おうとすると、ロイの口から微かに、何か聞こえた。



「……?」


耳を澄ます。
だが、エドが聞き逃した言葉を、ロイは再び言おうとしない。


「‥ロイ」


もう一度、名を呼んでみた。
すると。


「‥…ド」


「は?」


「‥エドワード」


ロイが口にしたのは、確かに自分の名前だった。
何なんだろう。
そう思っていると、また何かボソボソと聞こえた。

拘束が緩んだと思うと、ロイの腕は宙を舞っている。
何かを探しているようだった。


「‥‥?」


「‥‥お」


良く聞こえなくて、ロイの顔の方へ近づけた。
すると、ロイの手が頬を掠った。

またロイの口が微かに開き、言葉を発した。


『顔』



ロイは確かにそう言った。

「はぁ?意味わかんね…」

今度は唇にロイの指が触れた。
エドの「顔」を見つけたロイは、エドの後頭部を引き寄せる。

唇が重なった。


「ぅん…!?」


一瞬、頭が固まってしまった。

時間も、止まった。

何が起きているのだろう?

我に帰り、胸を押し返す。





エドってロイの胸の中にすっぽりおさまりそうですヨネ!



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