しかし更なる力で、抱きこまれる。
舌を挿しこまれ、執拗に絡ませられる。
ぎゅっと目をつむると同時に、エドの唇から声が漏れた。
「ん…っ…ふ…っ」
妙に近くで聞こえる。
リアルなエドの声。
いつも見る夢とは違う。
何だろう、これは。
リアルすぎる。
妙に思ったロイが、腕を緩めた瞬間、頬に痛みが走った。
「何すんだよ!バカ大佐!」
「は、鋼の…?」
頬の熱さで、やっとちゃんと目を覚ます。
ーなんという事。
<夢じゃなかったのか…!>
バタンと扉が閉められる。
暫く固まって、動けずに居た。
***
はぁ、と溜め息ばかりのロイを見て、ハボックがホークアイに尋ねる。
「…大佐、何かあったんスか?」
「…さあ。分からないわ」
「分からない」と言いつつも、ホークアイには察しがついていた。
昨日司令部へ来たエルリック兄弟の兄・エドワードに関する事だろうと。
そう思いながらロイに視線をやると、また何処か虚ろ気な目で書類を眺めている。
ロイは朝の事が気になって仕方なかった。
ぼんやりとしながらも、エドの唇の感触は確実に残っている。
…キス、してしまったのだ。
<…何て事を…>
帰ったらどんな反応をされるだろう。
まず、避けられるだろう。
軽蔑の目で見られるかもしれない。
…時間を戻してしまいたい。
そして朝、何事もなかったかのように起きれば。
そこまで考えて、何と愚かな事を考えているのだろうと、また溜息を吐く。
しかし最も愚かだと思うのは、こんなに後悔しているにも関わらず、もう一度、エドに触れたいと思っている事だった。
底無しの欲望が、嫌になる。
また溜め息を吐くと、書類に視線を戻した。
***
「兄さん、朝騒がしかったね」
アルの言葉にギクッとして、エドは肩を上げる。
読んでいた本からアルに視線を移す。
「…大佐にチュ−された」
エドは思い出したくもない、という顔で口元をゴシッと手で擦るが、アルは首を傾げた。
「は?」
「大佐、寝ぼけてたんだ」
詳しく聞こうとアルがエドの方に寄る。
そして一部始終を聞き終えると、一つ息を吐き出した。
「寝ぼけてたんじゃなくて、寝たフリして俺の事からかってたのかもしんね−」
「きっとそうだ」と呆れたように言うエドだが、アルの頭には疑問が浮かんでいた。
<…からかう目的だけで男にキスするかなぁ…>
しかもロイは女好きと評判の男だ。
どうも腑に落ちない。
だが、そんな事を言ってエドの気分を更に悪くさせたら大変だと思い、口には出さなかった。
***
仕事が終わり、家へ帰ろうとする足が重い。
エドに避けられたり、嫌悪を露にされたりするのはキツイものがある。
とにかく詫びなければならないと思い、美味しいと評判の菓子屋で二つ三つケーキを買って帰った。
家の扉を開けて、リビングへ向かうと、エドが食器を並べていた。
「あ、おかえり。今アルが食事作ってくれてんだ」
・・・何でもない風に言われる。
どう接して良いものか躊躇していると、帰りに買ったケーキの箱にエドが寄って来た。
「なんだよコレ」
「…今朝はすまなかった」
箱を差し出しながら謝ると、エドは真ん丸な目を更に目を丸くした。
からかわれていると思っていただけに、驚いた。
箱を開けるとこ洒落たケーキがいくつか入っている。
ここでやっと今朝は本当に寝ぼけていたのか、と理解した。
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