追いかけっこ・4










しかし更なる力で、抱きこまれる。
舌を挿しこまれ、執拗に絡ませられる。
ぎゅっと目をつむると同時に、エドの唇から声が漏れた。

「ん…っ…ふ…っ」

妙に近くで聞こえる。
リアルなエドの声。
いつも見る夢とは違う。

何だろう、これは。
リアルすぎる。

妙に思ったロイが、腕を緩めた瞬間、頬に痛みが走った。

「何すんだよ!バカ大佐!」

「は、鋼の…?」

頬の熱さで、やっとちゃんと目を覚ます。


ーなんという事。


<夢じゃなかったのか…!>


バタンと扉が閉められる。
暫く固まって、動けずに居た。





***



はぁ、と溜め息ばかりのロイを見て、ハボックがホークアイに尋ねる。

「…大佐、何かあったんスか?」

「…さあ。分からないわ」

「分からない」と言いつつも、ホークアイには察しがついていた。
昨日司令部へ来たエルリック兄弟の兄・エドワードに関する事だろうと。
そう思いながらロイに視線をやると、また何処か虚ろ気な目で書類を眺めている。
ロイは朝の事が気になって仕方なかった。
ぼんやりとしながらも、エドの唇の感触は確実に残っている。

…キス、してしまったのだ。


<…何て事を…>


帰ったらどんな反応をされるだろう。
まず、避けられるだろう。
軽蔑の目で見られるかもしれない。

…時間を戻してしまいたい。
そして朝、何事もなかったかのように起きれば。

そこまで考えて、何と愚かな事を考えているのだろうと、また溜息を吐く。
しかし最も愚かだと思うのは、こんなに後悔しているにも関わらず、もう一度、エドに触れたいと思っている事だった。

底無しの欲望が、嫌になる。

また溜め息を吐くと、書類に視線を戻した。







***






「兄さん、朝騒がしかったね」

アルの言葉にギクッとして、エドは肩を上げる。
読んでいた本からアルに視線を移す。

「…大佐にチュ−された」

エドは思い出したくもない、という顔で口元をゴシッと手で擦るが、アルは首を傾げた。

「は?」

「大佐、寝ぼけてたんだ」

詳しく聞こうとアルがエドの方に寄る。
そして一部始終を聞き終えると、一つ息を吐き出した。

「寝ぼけてたんじゃなくて、寝たフリして俺の事からかってたのかもしんね−」

「きっとそうだ」と呆れたように言うエドだが、アルの頭には疑問が浮かんでいた。


<…からかう目的だけで男にキスするかなぁ…>


しかもロイは女好きと評判の男だ。
どうも腑に落ちない。
だが、そんな事を言ってエドの気分を更に悪くさせたら大変だと思い、口には出さなかった。





***




仕事が終わり、家へ帰ろうとする足が重い。
エドに避けられたり、嫌悪を露にされたりするのはキツイものがある。
とにかく詫びなければならないと思い、美味しいと評判の菓子屋で二つ三つケーキを買って帰った。

家の扉を開けて、リビングへ向かうと、エドが食器を並べていた。

「あ、おかえり。今アルが食事作ってくれてんだ」

・・・何でもない風に言われる。

どう接して良いものか躊躇していると、帰りに買ったケーキの箱にエドが寄って来た。

「なんだよコレ」

「…今朝はすまなかった」

箱を差し出しながら謝ると、エドは真ん丸な目を更に目を丸くした。
からかわれていると思っていただけに、驚いた。
箱を開けるとこ洒落たケーキがいくつか入っている。

ここでやっと今朝は本当に寝ぼけていたのか、と理解した。









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