「もう寝ぼけんなよ」
一言言うと、ケーキの箱を閉じた。
本当に何にも、まるでどうでもいい様に対処された。
何処か虚しさを感じるが、避けられたり軽蔑されたりするよりかはずっとマシなはずだ。
そう思った。
もう二度とあんな真似はするまいと。
…確かにそう、思った。
3人で話していると、いつの間にか時計の針が11時を回った。
賢者の石についての内容や、人体錬成に関する内容を出せば、エドはどこまでも食いついてきた。
話が一段落ついたところで、ロイはチラリと時計に視線をやると、また二人の方に視線を戻した。
「…もう遅いな。そろそろ寝なさい」
二人は素直に従い、自分達の部屋へと戻った。
さっきロイから聞いた情報について話していると、アルが急に話を変えた。
「大佐ってさ、ちょっとお父さんみたいだよね」
「…はぁ?」
何を言っているんだ、と、エドが横目でアルを見る。するとアルは照れたように、鎧の頭を俯かせた。
「さっきだって、゛寝なさい゛って言われたし…なんか…。兄さんはそんな感じ、しない?」
「全っ然しね−」
ロイが自分の父だったら堪らない。
たしかに頭はキレるし、腕も確かだ。
が、女癖の悪さは評判だ。
「お前なぁ、あんな奴が父親だったら大変だぞ」
「ほう、何が大変なんだね?」
いきなり背後から聞こえた声、それは。
今、話題の主人公である人物。
「うわ!大佐!」
「…今夜は冷える、というのを聞いてね。毛布を持って来たんだが…いらないようだな」
「い、いるいる!いるって!」
背を向けるロイを、慌てて引き止めるその姿に、ロイの顔は緩んだ。
「ここに置いておくぞ。ああ、鋼の。明日の目覚ましも、頼めるかね」
「ぜって−嫌」
今朝あんな事があったばかりなのだ。
もう寝ぼけてあんな事をされるのは、沢山だ。
「生体錬成について詳しい人物を紹介してやる、と言ったら?…そうでなくとも、屋根代としてそれくらいやってくれても、バチは当たらないと思うがね」
「人の足元見やがって…」
「何か言ったかね?」
「っ何でもない!わかったよ!」
了解の言葉を聞くと、ロイはフッと笑っい、部屋から出て行った。
するとアルは早速、毛布をエドに渡す。
「ね、兄さん」
やっぱり“お父さん”みたいな雰囲気あるよね、とアルは嬉しそうだ。
「ん〜…」
まだハッキリ「そうだな」と同意の言葉を出しはしないが、さっきよりアルの気持ちが分かってきた。
優しいところは…
ロイの良い部分は、見えている。
女癖が悪いと評判だが、女性が放っておかないのも、分かる。
しかしそれを素直にアルに言うのは、照れ臭かった。
**
「ん…」
夜中、エドは目が覚めた。
何だか妙に喉が渇いている。
下に行って水でも飲もうと部屋を出た。
ぼんやりとした頭で、階段を降りようとする寸前、ロイの事が頭を掠った。
昨日は随分遅くまで、起きていたようだった。
今日は眠っているのだろうか…。
何だか妙に気になってしまい、ロイの部屋の方へ向かう。
扉が少し開いていて、そこらか明かりが漏れている。
エドがその扉に手を掛けると、扉はギイと鳴った。
すると直ぐにロイが中から扉を大きく開けた。
「……またトイレかね?」
「……あんたこそ、また眠れねぇのかよ?」
ロイはフッと笑うと、エドを部屋の中に入れる。
薄暗い部屋に入ると、ロイとは椅子に、エドはベッドに腰掛ける。
「…何か私に用事があるのかい?鋼の」
どうして。
どうしてこの部屋に来たんだろう。
トイレでは無さそうだ。
それなら…
それなら、何故。
エドは答えづらそうにしている。顔も少し、俯かせて。
<…これは、つまり>
非常に、まずい。
この雰囲気。
鼓動がー早い。
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