追いかけっこ・6












「いや、だから…。水飲みに下降りようと思ったんだけど、大佐、昨日も遅くまで起きてただろ?…今日はどうなのかなって。ちょっと気になったっつーか…」

「…なるほど」

正直、こういう発言を今されると困る。
『気になった』なんて。
大体、眠れないのは。

<…君のせいなんだがね、鋼の>

眠れない夜。
そういえば子供の頃、アルが眠れないと言った時が時折あった事を、エドは思い出していた。
そういう時はよく、エドが添い寝をしてやったのだ。
添い寝と言っても、エドも一緒に寝たかっただけだったのだが。

懐かしく温かく、少し切なくなる、思い出だ。

「添い寝でもしてやろうか」

「……」

エドが茶化すように言うと、ロイが目を丸くした。
見開いたまま、エドをじっと見ている。

「冗談だよ!そんなに変な顔しなくたっていいだろっ」

勢いよく、ボスっとロイのベッドに身を沈める。
…もう少し、警戒して欲しい。

朝、唇を奪われた相手だというのに、エドは全く気にしていない。
きっとそれ程までに、エドの中では有り得ないことなのだ。

ロイがエドに対して、そういった想いに身を焦がしているという事なんて。

その証拠に、エドは添い寝などと言い出した。
冗談でも、不埒な欲望は頭を過ぎって大きくなる。


「…アルにもよく、俺が添い寝してやったんだ」

ポツンと言った言葉が、部屋に響く。
薄暗い明かりに、エドは欠伸を一つした。

「君は誰に、してもらっていた?」

「俺はねーよ」

母はいない。
父もいない。
アルだけだったのだ。
アルに添い寝をしてやる振りをして、本当は、して、もらっていたのだ。
強がっても、寂しい夜があったのは、自分も同じだったから。


「…添い寝が必要なのは君の方なんじゃないかい?」

茶化す風でもなく、静かに言われた。
ああ、眠たい。
きっと言い返さないのは、この眠たくなった頭のせいだ。

「さぁな…」

ロイはエドの方へと距離を縮めると、大きな手をエドの頭に軽く乗せた。
髪を優しく、撫でられる。

…何の真似だろう。

そう思ったが、その手を振り落とせないのは何故なのか。

安らいだようなこの気持ちは、何だろう。

『お父さんみたい』

アルの言っていた事が、少し理解できる。
最も、自分達の父親の事ではないが。

「…大佐」

本格的に眠たくなってきた。頭がぼんやりする。
ロイの手を、心地いいと感じてしまっている。

「何だ?」

「…なんでも…」

なんでもない、と全て口にする前に、意識を手放してしまった。



目がぼんやりと開く。
此処は、どこ−…。

そうだ、昨日はロイの部屋で眠ってしまったのだった。とても良く眠れた。
だが何か、忘れているような。


『明日の朝も目覚ましを』

「…っ!!」

そうだった。
今朝もロイを起こさなければならなかったのだ。

「やべ…!つうか大佐どこだよ!」

此処はロイの部屋なのに、ロイは居ない。
どこで寝ているのだろう。







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