「いや、だから…。水飲みに下降りようと思ったんだけど、大佐、昨日も遅くまで起きてただろ?…今日はどうなのかなって。ちょっと気になったっつーか…」
「…なるほど」
正直、こういう発言を今されると困る。
『気になった』なんて。
大体、眠れないのは。
<…君のせいなんだがね、鋼の>
眠れない夜。
そういえば子供の頃、アルが眠れないと言った時が時折あった事を、エドは思い出していた。
そういう時はよく、エドが添い寝をしてやったのだ。
添い寝と言っても、エドも一緒に寝たかっただけだったのだが。
懐かしく温かく、少し切なくなる、思い出だ。
「添い寝でもしてやろうか」
「……」
エドが茶化すように言うと、ロイが目を丸くした。
見開いたまま、エドをじっと見ている。
「冗談だよ!そんなに変な顔しなくたっていいだろっ」
勢いよく、ボスっとロイのベッドに身を沈める。
…もう少し、警戒して欲しい。
朝、唇を奪われた相手だというのに、エドは全く気にしていない。
きっとそれ程までに、エドの中では有り得ないことなのだ。
ロイがエドに対して、そういった想いに身を焦がしているという事なんて。
その証拠に、エドは添い寝などと言い出した。
冗談でも、不埒な欲望は頭を過ぎって大きくなる。
「…アルにもよく、俺が添い寝してやったんだ」
ポツンと言った言葉が、部屋に響く。
薄暗い明かりに、エドは欠伸を一つした。
「君は誰に、してもらっていた?」
「俺はねーよ」
母はいない。
父もいない。
アルだけだったのだ。
アルに添い寝をしてやる振りをして、本当は、して、もらっていたのだ。
強がっても、寂しい夜があったのは、自分も同じだったから。
「…添い寝が必要なのは君の方なんじゃないかい?」
茶化す風でもなく、静かに言われた。
ああ、眠たい。
きっと言い返さないのは、この眠たくなった頭のせいだ。
「さぁな…」
ロイはエドの方へと距離を縮めると、大きな手をエドの頭に軽く乗せた。
髪を優しく、撫でられる。
…何の真似だろう。
そう思ったが、その手を振り落とせないのは何故なのか。
安らいだようなこの気持ちは、何だろう。
『お父さんみたい』
アルの言っていた事が、少し理解できる。
最も、自分達の父親の事ではないが。
「…大佐」
本格的に眠たくなってきた。頭がぼんやりする。
ロイの手を、心地いいと感じてしまっている。
「何だ?」
「…なんでも…」
なんでもない、と全て口にする前に、意識を手放してしまった。
目がぼんやりと開く。
此処は、どこ−…。
そうだ、昨日はロイの部屋で眠ってしまったのだった。とても良く眠れた。
だが何か、忘れているような。
『明日の朝も目覚ましを』
「…っ!!」
そうだった。
今朝もロイを起こさなければならなかったのだ。
「やべ…!つうか大佐どこだよ!」
此処はロイの部屋なのに、ロイは居ない。
どこで寝ているのだろう。
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