**再会**












が弁当買ってきてくれるって」


和谷が嬉しそうに携帯を閉じた。


和谷が最近、「仲良くなった娘」とやらを紹介してくれるというので、今日は進藤と一緒に和谷の家に来ていた。

そして今さっき、和谷と仲が良いらしい「」さんから電話が入って、和谷に何かを話していた。
もう夕飯が近づいているから、気を遣って何か夕飯を買ってきてくれると言ったのだろう。



進藤はもう「」さんに会ったらしい。
俺は今日が初対面だが、進藤や和谷の様子から愛らしい感じがした女の子だというのは伝わってきた。


どことなく、二人が気にしている様子だったから。


俺も少し、気になっていた。




どんな娘だろう。









「こんばんはー」


そんな事を考えていると、「」さんが帰ってきた。

俺は妙に緊張して、胸を高鳴らせていた。





「はじめまして…あれ?」




あれ…?


俺達に向かって、微笑んで挨拶しようとする女の子。



この子ー…!!




「あ、あの時の…!」


「わぁ!やっぱり!あの時の!!」



嬉しそうに俺に近づいてくる。
やっぱりあの子だ…!!




1か月前。


電車の改札。


困っていた女の子。






頭の中で「」さんとの出会いが蘇る。



電車に乗ろうと改札を抜けると、キョロキョロと地面を見つめて困っている女の子の後ろ姿が見えた。

…どうしたんだ?

切符か定期かコンタクトか。

とにかく何か落としたのかな、と思い俺も下を見てみると、そこには案の定、切符が落ちていた。



…これかな。



屈んでそれを拾うと、目の前の女の子の肩をポンと叩いた。


「これですか?」


「あ!あー!!良かった!ありがとうございま…!…あ、あれ…?ち、違う…」


すみません、ありがとうございます…と申し訳無さそうにお辞儀すると、その子は再び切符を探し始めた。

どうやら俺が拾ったのは、他の誰かが落としたものだったらしい。


下を向く度、落ちてくる髪の毛を耳にかけるその仕草は、とても焦っているように見えて、放っておけなかった。


俺も探し始めたのに気づいたらしく、「ありがとうございます」と再び目の前で頭を下げられた。


正直、可愛いと思った。




暫くたつと、電車が参りますのアナウンスが流れた。
それを聞くと、彼女はピタっと動きを止め、俺の目の前に寄ってきた。



「すみません、諦めます…。本当にありがとうございました」


話を聞くと、この電車を乗り過ごすと、大学に遅れるらしい。

残念だね、と言うと、彼女はもう一度お礼を言ってホームの階段へ向かった。



その時、不意に下を見渡すと、小さい茶色の物が目に入った。

急いで近寄ると、さっき拾ったのとは違う切符だった。



ーきっとこれだ!


バっと彼女を見ると、
あと一歩で階段を下りてしまうトコロだ。


「ま…っ!これ…!」


後ろから肩を掴むと、彼女はびっくりしたように俺の方を振り返った。


手に持った切符を目の前に差し出すと、顔がパアっと明るくなった。



「こ、これ!ありがとうございます!!」


さっきより更に深く頭を下げられ、何だか照れてしまう。


「本当に、ありがとうございました」


「い、いえ…」


本気でありがたそうな眼差しで見つめられ、顔が赤くなるのを感じた。



階段を下りる途中、彼女はもう一度振り返り、笑顔で軽く会釈されて更に顔が赤くなった。





まさか彼女が、和谷の友達の「」さんだったなんて。



世界は狭い。






「あの時はありがとうございました。すっごく助かりました」


笑顔でお礼を言う彼女は、やっぱり可愛い。


「あ、いえ…。でもまさか…」


「私もビックリしましたよ〜!電話番号聞けば良かった〜!ってあの後、後悔してたんです」



え!?
そ、それはどういう意味だろう…


実は俺も、あの後番号を聞けばよかったと、どれくらい思ったかわからない。
もう一度会えないかと、あの駅に行く度、彼女を探している自分がいた。




「ちゃんとお礼したかったな、って思って。でも今日会えて良かった」


そういう意味か、と少し残念がっていると、彼女が「あ!」と何か思いついたような声を出した。


「名前、聞いてなかった!」


ああ、そういえば教えてなかったな。


「じゃあ改めて。伊角慎一郎です」


「あ、私はです」


ヨロシクオネガイシマス、とまた頭を下げられる。
それが何だかおかしくて、俺はつい笑ってしまった。


さん、か」


俺が名前を繰り返すと、「でいいですよ」と言われた。
しかしそれはちょっと照れくさいので、ちゃんと呼ぶことになった。





彼女にまた会えた。

とにかくそれが嬉しかった。









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