獄寺が教科書を読んでいると、ツナが首がカクン、と縦に落ちた。 眠たいらしい。しかしすぐに、ハっと目を開くと、獄寺の方を見た。 「10代目?眠いですか?」 「え、うん…ちょっと」 ハハ、と笑うと、獄寺の説明の続きを促した。 しかしまた、暫くして、コクリコクと首を揺らす。今度は暫くそのままで、意識が戻るのに時間が掛かった。 目覚めた時のツナの慌てように、獄寺は少し吹きだしてしまった。 「10代目、ちょっと寝た方がいいっスよ。オレ、起こしますから」 「え!だ、駄目だよ、そんなの…」 獄寺を気にしているようだった。 用事があるらしかったのに、わざわざ自分に付き合ってもらっている獄寺を前に、眠るなんてできない。 そう思っているようだった。 「寝た方が頭、ハッキリしますよ。15分くらいしたら、起こしますから」 「う、うん…。じゃあ、…ごめん」 ちょっとだけ、寝るね。 そう言うと、ツナはベッドに転がった。 すぐに、すう…という音が聞こえてきた。 カチ、カチ、カチ。 時計の音が、バカに大きく聞こえる。こんな大きな針の音は、今まで聞いた事がない。 ああ、なんて事を言い出してしまったのだろうか。 寝た方がいいだなんて。 決してベッドの方へは視線をやらず、できるだけ「ツナがすぐそこで、寝ている」という事実を頭から追い出そうとした。 しかし、聞こえてくる寝息は、容赦なく獄寺の邪魔をする。 すぐそこに、この、同じ空間、密室の中。 ツナが、寝ている。 (−…駄目だ、廊下に出ないと) この部屋に居るのは、危険だ。とても危険なことだ。 そう思った獄寺は、スっと立ち上がった。その時、視界に、入ってしまった。ツナの、姿。 無防備そのもので、すぐそこにいるのだ。 見てしまえば、もう視線は外せなくて、引き寄せられるように、そうっとベッドへ近づいた。 頭では、足がいけない方向に向かっていて、目もいけない者を見ているというのを、理解していた。 しかし、どうしようもない。 「ん…っ」 ゴロン、と仰向けに寝返ったツナに、獄寺の心臓は跳ね上がった。 やましい事をしようとしている、自分が居たからだ。 目を覚まさないツナに、コクリと喉が鳴った。 一歩一歩、ベッドまでの距離を縮める。 これ以上踏み込んではいけない、本当に取り返しがつかなくなると、どれだけ頭の中で警告が流れているか分からない。 なのに、なのに。 とうとう、目の前に、ツナの姿。ベッドにもう、触れられる。 ツナにだって、触れられる距離。 ツナの頭の隣に、手を置くと、ギシっと、音が出た。ギクリとしたが、ツナは全く、気が付かない。 そのまま、顔が、近くなる。 (何ー…。何してんだ、オレ…−…。…駄目だって) いくら欲しくたって、こんなの、許されることではない。 分かっている。 でも、少し触れるくらいなら。 少し、で終わらす事などできない事も、分かっているのに。 ( やばい。欲しい。欲しい。駄目だ。欲しい。 ー…欲しい。 ) どれだけ焦がれたかわからない。 今、目の前に居る。 今、触れられる。 どうしたって、欲しい。 まずい、まずいと思っている内に、手が伸びてしまう。 触れたくて触れたくて、仕方なかった。 その肌に、あと数ミリで触れてしまう。 引き返せなくなる前に、目を瞑るべきなのは分かっている。 けれど。 ギシリ、とベッドが鳴ったかと思うと、ツナがパチンと瞳を開いた。 「……っ!!」 「え?…あ、15、分?」 軽々と、上半身を起こすと、ツナは時計を見た。 どう見たって、15分も経っていない、時計を。 気まずそうに、顔を真っ赤にしている獄寺を瞳に映し、ツナは首を傾げる。 なんてことをしようとしたんだろう。 自分が、恐ろしかった。 溢れるばかりで、決して尽きることがない欲望と、この想いを抱えたまま、どうしたらいいのか。 自分がどうなってしまうのかも、分からない。 |