ツナは、時間が経っていない事など気にしてはいないようだった。
獄寺はホっと、胸を撫で下ろす。
こし、と軽く目を擦ると、もう一度時計を見た。
獄寺はギクリとして、ツナの意識を逸らさせる。

「ちょっとは眠気、覚めました?」
「んー…、うん。ちょっとだけ。ごめんね、獄寺君。もうこんな時間」

「用事がある」と帰ろうとした、獄寺の事を気にして、時計に意識を向けていたらしい。
笑うと、「全然、問題ないっスから気にしないでください」と言ってのけた。

「ありがと」

ツナは、薄っすら、照れくさそうに笑った。
こんなにも無防備に笑うツナを、いつまで見ていられるのだろう。
勿論、自分は生涯、ツナの側に居て、その身を挺してツナを守る。
自分の一生は全て、この人のものなのだ。
だがその内、ツナにも恋人が出来て、結婚もして。
そういうものを全部、見ていかなければならないのだ。
全て、覚悟していかなければならなかった。
まるで地獄のようだろう。
一生、ツナに焦がれながらも、ツナには何も知らせることはないまま。
ツナは、他の人を見る。
それを目にしながら、時は過ぎていき、そうしていつか、この目を瞑って。

この世界を、離れるのだろう。

最後の一瞬、この人が悲しんで、泣いてくれたら
そして時折、思い出してくれたら、それだけでも満足だーと。

思わなければ。そういう風にして、生きていかなければ。
絶対そんなこと、無理だと思いながらも、そう言い聞かせていた。
この気持ちがツナにばれてしまえば、きっとツナは、遠くへいってしまう。
今、見た笑顔も、もしかしたらもう二度と。
堪えられない、そんな事は。


いくら溢れ出る気持ちを持て余したって、絶対に、ツナには告げない。
言わない、絶対に。
言葉にしないまま、一生を終えていい。
だが、ツナの事を 一番 世界一 誰よりも 誰よりも愛しているのは、想っているのは、
間違いなく自分だと、断言できる。



今も、最後の時だって、生涯この気持ちは、絶対のもの。













また、朝が来た。昨日は何事もなく、ツナと勉強を続けられた。
ツナは寝不足のようで、何回も、何回も欠伸をしていた。
その様子に、笑みが漏れる。

「でかい欠伸」

階段の前で、声をかけてきたのは、持田だった。
何でまた、朝っぱらから出てくるのかと、獄寺の機嫌は一気に悪化した。
睨むとツナが困ったように見てくるので、ただ、無愛想にしていた。

「ね、寝不足で」
「また宿題だろ」
「…………」

ビンゴだったツナは何も言えない。
意地悪そうに笑ったかと思うと、持田は、「仕方ねえ奴」と、今度は優しそうに笑った。
持田のこういった面を知ったのは、いつ頃だっただろうか。
意地が悪いだけではない。今でも高校では、気にいらない輩をシメてはいるようだが。
だが、優しい面も、確かに、確かにある。
それをツナは、もう知っていた。

「たまには剣道部も見に来い」

そう言うと、トントンと階段を上がっていった。
ツナの視線が、上を向いている。持田の方面。
どうしようもない、気持ちになった。
ツナが自分のものだったなら。
もう何度、考えたことか。もう何度、願ったことか。
これからだって、きっと考えてー願ってしまう。

『満足だ』
『彼の側にいられて そして彼の顔を見ながらこの世界を離れられれば』
『満足だ と、思わなければ』

ツキン、と胸を刺す。どうやったって、焦がれてやまない彼は、手に入らない。
やるせない気持ちが、溢れ出す。
それならどうか、この心ー暴かないようにすればよかった。
どうか、どうか。
こんな欲望なんて、捨ててしまえたら!
いくら願ったって、無くなることなんてない。


自分以外のものになるツナを見たら、気が狂うのではないだろうか。










アワアワアワ…


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