煮詰まっているー、そう思った。ああ、どうせなら気がつかないでいたかった。
騙し騙し、流せるだけ流していれば良かったのだ。
できるわけもない事を、それでも、そう思ってしまった。できるわけもない事。
こんな強烈な想いーこんな、自分を支配する欲望に想いは、騙しきれない。


「獄寺くんー何だか今日、…どうしたの?」
「…………」

貴方のことで煮詰まってます。
今日はことさらー朝っぱらから、あの男と貴方との接触があったので、いつも以上に、オレはおかしくなりそうです。


ー言ったら、どんな顔をするのだろう。どれだけ自分は心が狭いのか、と思う。
獄寺が、そんなことを考えている時も、彼の愛しい「10代目」は、真っ直ぐに見つめてくる。
時折その視線が、心の中を見透かしていたら(本当に、ほんの少しでも)どうしたらいいのか…と、
不安が胸を襲う時があった。

「どっか変ですか?」
「変ー、じゃないけど。や、変っていうか」

今日は良く、伏せ目がちになる瞳が、気になったのだった。
朝は、普通だったと思う。
だが、教室に着いた頃にはもうー…少し、様子が違ったように思えた。
いや、それを言うなら、昨日の晩からだったか。

(……あれは、獄寺君に違いないけど)

15分、したら起こすと言われた。
あの時ーツナはまだ、眠りについていなかったのだ。目を瞑っていただけだった。
真っ暗な世界。しかし、瞼の下から、明るさを感じる。
それが、陰った。
そして、ギシリ、と鳴った、ベッドの音。
獄寺だ、というのは分かったが、すぐに目を開けてしまった。−何か、用事があるのかと思った。
だが、獄寺の口からは特に何も告げられなかった。

(……なんだったんだろう)

大して気にすることじゃないのかもしれないが、何故だか、気に掛かった。













「あ、出すの忘れてた!」

帰り支度の途中、ガサゴソと机を漁ると、少し折れた、よれよれのプリントが発見された。
提出日が今日まで、となっている。すっかり忘れていた。

「ちょっと出してくる。先帰ってていいよ」

付いて来ようとする獄寺を、大丈夫だからと止めると、渋々、教室内に戻った。
待ってます、と言う彼の背景を、窓から見える夕焼け色の景色が、鮮やかに飾った。
急ぎ足で職員室へと行く音が、やがて聞えなくなる。
シイン…と静まり返った教室には、外からの音が少し響くだけだった。
中学時代を思い出し、ほんの少し懐かしくなる。

学生時代は良い。「学校」という共通の場所がある限り、時間を共有することが許されるのだ。
何の許可もいらない。
とりわけ中学生の頃なんかは、ツナの側に居る事が当たり前で、ずっと続くものだと信じて疑わなかった。
今だって、それは変わらないし、ずっと、ツナの側に、と思っている。
しかし、これから先、どんな風に変わっていくのかも分からない。
当たり前のように過ぎていく時の中で、不安のようなものが少しずつ、侵食し始めている。
ツナの席に近寄ると、その机に、そうっと触れた。

「…10代目、」

もう一度、「10代目」と呟いた。
この時だけ、想いを告げてみても、いいだろうか。
爆発しそうになったのを、何度も、何度も抑えてきた。
もうずっと、閉まってきた。

「ー気がついて、いないですよね」

せめて今だけ。
自分の中の、あまりにも大きくなりすぎた気持ちの中の、ほんの、ほんの一粒だけでも、吐き出させて欲しかった。

「特別な意味で、オレが貴方を想い過ぎている事。…昨日だって、相当我慢したんスよ」

橙に染まっている机に、言葉を落としていく。
誰にも、盗られたくない。自分のものに、したい。
触れたい。焦がれている。もう随分、昔から、ずっと、ずっと、そしてこれからだって。
異常なまでに強い、感情達。それらを、ポツリ、ポツリと、落としていく。静かにーしかし、強い言葉で。

「…愛してます」

叶うことは有り得ないんだ、と思うと、涙が出そうになる。
睫毛を伏せ、虚ろな目をして、まだ机を見ていた。
だから、ギシ、と軋んだ音がするまで気がつかなかったのだ。

ツナが、そこに居たことを。













一人で勝手に告白 しだしたよこの子…<しかも聞かれてたって それ またベタな



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