「10……」 やばい。 やばいやばいやばい。 そればかりが頭を回っている。 (聞かれた…っ) どうしても表沙汰にしてはならない事が、 どうしてか表沙汰になってしまった。 迂闊だった事を今更後悔しても遅い。 先ほどの愛の告白を嘘だとツナに納得させるだけの台詞を言わなければ、おしまいだ。 頭の中を総動員して考えるが、所詮本音で、そんな都合の良い言い訳は思いつかない。 ツナの視線が、痛い。 「あの、ち、違うんです」 「う、うん?」 ああ、何が違うというのか。 違うことなんて何も無い。 貴方が聞いた事は全て真実であり、それを自分の心に隠していた。 その上、ツナが聞いたら更に困るだろうが、あれだけじゃ言い切れないほど、愛してしまっている。 聞かれた言葉なんて、自分の心の内のほんの一部にすぎないのだ。 言うべきことが見つからない。 いっそのこと、ここで本当に告白でもしてしまおうか。 頭を過ぎったが、それは直ぐに却下された。 何故って、ツナの表情が露骨に強張っていたからである。 側にいたいなら、どうかそれ以上言わないでくれ。 間違っても、今の事は本音ですなんて、聞きたくもない! そう言われている気がして、どうしても口が開かなかった。 ノンケのツナが、男である自分に好かれても、嬉しくも何ともないだろう。 嫌な沈黙がやってきた。 冗談みたく振舞っても、結局隠し切れないような気がして、獄寺は何も言えなかった。 ツナは、顔が火照って火照って、仕方なかった。 さっきの、獄寺の告白が、妙に頭に響いたのだ。 「−…ご、ごめん…。オレ、先に帰るね」 ツナは、それ以上、獄寺の顔が見れなくて、急いで走り出した。 こんなに走ったのは久しぶりかもしれない。 走って、走って、走って。 (昨日…、昨日のあれは…) 15分、したら起こすと言われた。しかし、確かに15分も経っていない内に、獄寺の気配がして。 ギシリ、とベッドは鳴ってー 昨日の、あれは。 そういう事なのだろうか、と、今更になって気がつく。 教室で一人、愛を口にする獄寺の真剣な言葉は、自分にはあまりにも、刺激が強すぎて。 今、何が起こっているのか、分からない。受け入れられないほどの戸惑い。 獄寺は友達だ。ずっと信じて疑わなかった。同性なのだから、当たり前だ。 しかし、彼はそうではなかったのか。 まだ、信じられない。獄寺は何か、冗談を言ったのではないのか、と、どうしても思ってしまう。 (どうしよう、…どうしよう…!) でも、真剣すぎる彼の言葉は、冗談には聞こえなくて。 夕陽に包まれた教室で、吐き出した獄寺の告白は、本当に、あまりにも、あまりにもー 耳にこびりつく。頭に焼き付く。 苦しげに吐き出した、彼のあまりにも衝撃的な、あまりにも情熱的な告白が、 ツナには、恐かった。 学校を休みたい、と思った。 だが、そんな訳にもいかず、ツナはおぼつかない足取りで学校へ向かう。 獄寺に会ったら、何も知らない振りをしていた方がいいのか、それとも自分から、昨日のことを聞いた方がいいのか。 昨夜、頭がパンクしそうなほど考えた。 だが、クマが出来ただけで結論は出ずに、今に至る。 心臓がバクバクと音を立て、何だか良く分からない汗も出てきた。 こんなことでは、獄寺と会っても、まともに顔さえ見れない気がする。 |