「−…気が重い…」
「10代目」
「………っ、う、わ!!!」

どんよりとしたオーラを放つツナの隣に、いつの間にか獄寺が立っていた。
気配を全く感じなかったのは、自分の頭の中が一杯になっていたからなのか。
それとも獄寺が、そうっと近づいてきたからなのか。
それは分からないが、あまりに驚いてしまって、ツナは思わず、大げさに肩を上げて、獄寺を避けてしまった。

「−………」

それに少し傷ついたような顔を、ほんの一瞬だけ見せたが、すぐにニカっと笑ってみせた。

「おはようございます」
「お…はよう…」

それきり、会話は途切れた。
ツナは獄寺の顔を見ることが出来ないし、獄寺も、直視するのが難しい、といった感じだった。
それでもツナを見て、ツナが決して自分を見ようとせず、顔を俯かせているのを見ては、チクリと胸が痛んだ。
何とか会話をしようと、獄寺が口を開きかけた瞬間、ツナは走り出してしまった。
『10代目!?』と、獄寺の声が遠くから聞こえたが、足は止まることなく、走っていった。

(オレ、−…何やってんだろう…!逃げるなんてー…っ)

しかし、あの場に居られない。どうしても。
獄寺の声を聞かなくても、あの告白が頭の中で鮮明に蘇るというのに、
獄寺の声を直接聞いてしまっては、昨日の事があまりにも、あまりにも頭の中を一杯にしてしまって。
もう、弾けてしまいそうだった。











ー逃げられてしまった。

獄寺は呆然と、その場に立ち尽くしていた。
一番大事な、何よりも大事な人に、あんな顔をされて。

(一回も、オレを見ようとしなかった…っ)

終いには、逃げられて。
何てことだろう。なんで、昨日あんなことになってしまったのだろう。
ー何てことだろう。
こんな事態になってもまだ、自分はこの、有り余る程の欲望を捨てられずにいるなんて。
最低だ、最低だ、と思ってみても、気持ちを捨てられる訳はなくー
しかし、ツナにあんな態度を取られたまま一生を過ごすなんて、絶対に無理だ。
おかしくなってしまう。
今までは多少、恐がったところはあっても、ちゃんと笑ってくれたのだ。
それが今は、逃げられてしまった。
ぎゅっと歯を噛み締めると、髪を掻き毟るようにして、手を突っ込んだ。








カラリと教室の扉を開けると、そこにはツナが居た。
獄寺が来たのに気がついて、視線を逸らし、教科書に目をやる。
別に読んでいる訳ではないのだろうが、何か気を逸らす物が必要だったのだろう。
ひた、ひた、とツナに近づいていくと、ツナの緊張感が、ヒシヒシと伝わってきた。
それは同時に、「コナイデ!」と強く言われているようでもあり、獄寺には最高に、辛い攻撃であった。

「−…おはよう、ございます」

さっき言った言葉をもう一度繰り返すと、ツナは獄寺を見ずに、ポツンと「おはよ」と口を開いた。

「−………昨日の事なんですけど」
「ごめんー…、今、宿題やっちゃわないと」
「後で全部オレが見せます」
「でも」
「写すのも、オレが」

そこまで言うと、ツナは漸く、獄寺を見上げた。

「−…ごめん」

心臓が、鋭いもので刺されたようだった。
それは、何のゴメンなのか、−獄寺はあまり、考えたくなかった。
昨日の告白に対するゴメンなのか、それともさっき、逃げ出したことへのゴメンなのか、
それとも、今、自分の話しを聞こうとしなかった事に対するゴメンなのかー

「…教室、出ましょう」

それに対しては何も言わず、静かに、獄寺がツナの頭に言葉を落とすと、
ツナはコクンと頷いた。

来た場所は、図書室だった。
朝なのにも関わらず、日当たりが悪いせいで薄暗いそこは、鍵など掛かっておらずに、簡単に扉が開いたが
中には誰も居なかった。





久々の更新ですが

に、逃げられたー!!(笑)
む、報われないったらありゃしません…






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