「な、なんでもない…」

声が上擦った…。
あまり、見ないでほしい。

ーまだ未練がある事を、自覚したくなかった。

そう。
私はアキラ君の事が、ずっと好きだった。
ずっと、ずっと。
もう諦めたつもりなのに、何故かまだ、意識してしまったりして…そんな自分がとても嫌だった。

告白したわけじゃないし、好きだよって事をアピールしようとした事もない。
だけど、駄目だった。

アキラ君と居ると、どうしても比べてしまう。
不釣合いだと、勝手に思い込んでしまう。

…いや実際、不釣合いと思うのだけど。

アキラ君は凄い人だ。
だからどうも、平凡な自分と付き合う姿なんて想像できないし、それを頭が拒否してしまう。

でも最初は、それほど気にしていなかったのだ。

家が隣同士だけあって、仲は良かった。
だけど、どんどんアキラ君が有名になるにつれて、なんとなく、気にするようになった。
それに最近。
追い討ちをかけるかのように、『彼には許婚がいる』という噂まで聞いてしまったのだから、もう気にしないはずがなかった。

許婚なんて、まるで漫画やドラマみたいだな。
でもアキラ君の家柄なら、無理もないか、と、意外に冷静に受け止めている自分がいた。

実感が、あまり湧かなかったし、どこかで「きっと噂に違いない。そうあってほしい」と、願っていたから。




ああ、嫌だ…。
こんな風にウジウジと悩んでいるのは、たまらなく嫌。

もう諦めたんだから、友達として、仲良く付き合っていこう。



「…さん?具合、悪いの?」


私が頭をグルグルさせて自己完結していると、アキラ君の心配そうな声が聞こえた。
しまった、また心配かけちゃったよ。

「ううん、なんでもないよ!」


できるだけ明るい声で言うが、アキラ君はまだ、何処か納得いかない顔をしていた。
納得させるように、ニコニコとしていると、一つ、溜め息を零された。

…まずい。愛想つかされたかもしれない。

心臓が、凍ったみたいになった。
やっぱりまだ、アキラ君を好きなんだと、また自覚してしまった。


さん、どうしたの。本当に…最近、元気ない」

「…ご、めん」

なんで謝ってるのか、自分でも分からない。
でもなんとなく、そんな雰囲気で。

この気まずい空気を、どうしたら浮上させる事ができるのか。
どうしよう。
怒ってる?怒ってる気がする。

でも何で?



「それに最近…避けてる?僕の事」


ズバリと、言い当てられてしまった。

ー避けてます。そうです、避けてます。

…バレていたのか。
ますますドウシヨウ…。


「…なんで?」

「…ごめん。変な事、言った」


会いたいという気持ちと、会いたくない、という気持ちがあって、どうしたら良いのかわからなくて。
微妙に、避けている点が、私にはあった。

まさか気づかれているとは思わなかった…。

ごめんなさい、と心の中で謝ると、精一杯の力で微笑んだ。

「…久しぶりだね、アキラ君と会うの」


そこから、他愛もない話をした。
恋愛話など微塵も出さずに。

婚約者の話にも、触れないでいた。









まさかこういう事になるとは最初の設定では考えていなかったよ…



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