「・・・さん、緒方先生に習ったの?」


・・・お、怒ってる?

え?何で?
アキラ君の目が冷ややかで、まるで責められてるみたいに感じてしまう。
緒方先生に習っちゃ駄目だった??
そう聞こうかと思ったけど、流石に本人の前では言えない。




「う、うん??」


私がそう答えると、アキラ君は静かに、「そう・・・」と呟いた。

それから緒方先生の方に向き直ると、今度は鋭い声を緒方先生に投げかけた。



「お父さんに何か言われた様ですけど、僕は一人で大丈夫ですから」



「・・・今日はアキラ君の誕生日だったな。夕飯に寿司でもご馳走しよう」


何か会話のキャッチボールが出来ていない気がするのは、私だけ?
アキラ君も、いつもは凄く優しいのに、どうしたんだろう。

緒方先生には、妙に冷たい気がする。



「有難うございます。でも今日は大事な用があるので。緒方さんもお忙しいでしょう?」


あ、あれー?

何か、分かってしまった。
アキラ君、緒方先生を帰らせたいのかな。

私と二人で過ごしたいとか?
なんちゃって。
アキラ君はそういう事、あんまり思わない気がする。


うーん。
でも、緒方先生せっかく来てくれたんだし、やっぱり皆でアキラ君の誕生日、祝いたいな。

やっぱり、沢山の人にお祝いしてもらった方が嬉しいよ。


「あ、アキラ君。今日、誕生日なんだし、緒方先生も一緒にお祝いして貰おう?」


ね?
と首を傾げて言ってみた。

でも。

いつも穏やかに笑うアキラ君とは違って、中々笑って返事をしてくれない。


・・・困ったな。

私がちょっと落ち込んでるのが分かったのか、アキラ君は渋々了承してくれた。






そんなこんなで、結局アキラ君の誕生日は、緒方先生と三人で過ごす事になった。





でも。


「す、スゴイよね!緒方先生!どのくらいの女の人と付き合ったんだろうね!」


「・・・そうだね」


やっぱりアキラ君はどこか不機嫌で、話しかけても、あんまり口を開いてくれない。

だから私も、緒方先生とばかり話してしまったりして。


う…うう。
何か悲しいな。

だって折角の、アキラ君の誕生日なのに〜!!


「緒方先生って、恋愛経験豊富っぽいですよね!!」


「・・・も結構、あるんじゃないのか?」


「全然!緒方先生の足元にも及びませんよ〜。それでどうなったんですか?その彼女と」


で、でも緒方先生のお話、凄く面白くて。
私は話に夢中になってしまった。







「…さん」


暫く黙っていたアキラ君は、緒先生がトイレに立つと、静かに口を開いた。

やったー!!
やっと口きいてくれた!!
私は嬉しそうに返事をした。

「なになに?」


「約束…誕生日には、僕の好きな事…してくれるんだよね?」


「うん!あ!そういえば碁、まだやってなかったね!やろ?」

マグネット碁盤を出そうとする手を、アキラ君の手に阻止された。

なんだろ?


「じゃあ、今日は緒方さんと話さないでって言ったら…?」


「…え、ええ?」


冗談かと思ってヘラっと笑ったけど、どうやら冗談じゃないらしい。
アキラ君の顔は真剣そのものだったから。




「好きな事してくれるって、約束だろ?」





「…でも…そんなの…」


できないよ、と言おうとしたけど。
アキラ君が凄く悲しい顔をした。

そ、その顔やめてよ〜!!


さん」




「〜〜…わ、わかった。頑張る…」




半ばヤケクソで返事をしてしまった。
だけど返事をしてしまった後で、馬鹿な事を言った、と後悔した。

だって緒方先生と話さないなんて〜!!

どうすればいいんだろう…

さっきまで、あんなにいっぱい話してたのに、いきなり無視するなんておかしいし…


とにかくできるだけ努力してみようと、それからの時間、なるべく緒方先生と話さないようにした。

何か話すと、アキラ君の視線に責められた。


うわーん・・・
なんなんだろう、これは…


今度は緒方先生がカワイソウになってきた…




リリリリリ



けたたましく電話が鳴りだし、アキラ君は部屋を出た。



「…



アキラ君が居なくなった部屋で、緒方先生に名前を呼ばれる。








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