どうやら今日の夕方6時から、彼女と会う約束をしているらしい。 つまり、夕方6時までには、自分は女になっていないといけないらしい。 現在・午後3時30分。 「どんな服がいいかしら。髪型は…」 「……」 どことなく楽しそうに髪を弄るホークアイとは正反対に、エドは世界が終わるような、どん底な顔をしていた。 無理もない。 女の格好をするだなんて、プライドはズタズタだ。 「一緒に街に出た方がいいわね。服も靴も、買わないと」 「…マジで?」 うんざりとしていると、ホークアイはにっこり「支払いは全部大佐だから。うんと高い物を買いましょう」と笑った。 街には華やかな服も靴も、溢れ返っていた。 女物の売っている所なんて、今までウィンリィに買い物を付き合わされた時くらいしか縁が無かった。 その時だって、勿論真面目になんか見ていなかったものだから、こんなにまじまじと見るのは初めてだ。 「こういうのはどう?」 そう言って、ホークアイが差し出したのは、フリルの付いたワンピースだった。 胸元には大きいリボンまで付いている。 …これを自分が着るのかと、想像しただけで恐ろしくなった。 「も、もっと地味目のやつの方が…」 エドの反応を楽しむかのように、次にホークアイが差し出したのは、濃いピンクのワンピースだった。 エドが絶句していると、ついにホークアイは吹きだした。 そこで、エドにはやっと、ホークアイがわざとやっていることに気がついた。 「中尉…」 「嘘よ、もう少し抑えたものの方がいいわね」 コクコクと、必死に首を縦に振る。 そうしてようやく選んだものは、淡い水色のワンピースだった。 フリルも何もなく、至ってシンプルなものだ。 スカートを履くというだけで、かなりのものなのだ。 その上フリルやらリボンやらが付いているなんて考えられなかった。 次に向かうのは靴屋。 ここでは真っ白な靴を一足買った。 不思議なもので、ここまできたなら、ロイが感謝をするくらい、完璧に女役をやってやろうじゃないか、という気になってきた。 それに、恩を着せるいいチャンスだ。 そうして買い物が済んだ頃にはもう5時近くになり、急いで司令部に戻った。 もう5時30分になる。そろそろ約束の場所に向かわなければ、と思った時、丁度、トントンとノックの音が聞こえた。 「入りたまえ」 扉から出てきたのは、エドだった。 水色のワンピースに、真っ白な靴。 いつも三つ編みで結っている髪は、下ろしていた。 動く度に、サラリと揺れる。 「もう行くだろ?」 「………」 何も答えないロイに、やはり自分では女役は無理だろうと勘違いする。 「…やっぱ他の女の子探した方が」 「…いや、そうじゃない。…君は女の子でも十分…」 通る、と言いそうになったが、エドの目がギロリと睨みつけてきたので、そこで止めておいた。 ロイも私服に着替え、約束の場所に向かった。 レストランに入り、指定の席が見えてきたが、女性の姿は見えない。 カタンと席に座ると、ロイが髪に触れてきた。 「何故、いつもは三つ編みなんだ?」 「邪魔だから」 即答するが、ロイはまだしつこく、髪を弄ってきた。 「…男の髪なんか触って楽しいかよ」 怪訝な顔をすると、ロイはフっと笑った。 やはりこの男の考える事は、良く分からない。 そんな事を思っていると、ようやく女性が現れた。 「ごめんなさい。お待たせして」 ふわふわのブロンドの髪の毛は、とても綺麗で華やかだった。 しかしそれに負けず、女性自身の顔立ちも、とても美しいものだった。 もしもこの女性とロイが、手紙だけのやりとりだったなら。 女性の顔を、ロイが知らなかったとするならば。 手紙で断った事を、後悔するのでは、と思った。 しかし、軽い挨拶の中でも、ロイは取り乱す事もなく、後悔しているような様子は全く見当たらなかった。 いつも通り、どこか余裕の顔。 「…まだ、お名前を聞いていなかったわ」 女性がエドの方を見つめると、そういえば、と、自己紹介をしようとした。 「エ…」 エドワード・エルリック。 と、言いそうになった。 こんな事を言ったらオシマイだ。男の名前なのだから。 いやしかし、そもそも自分が女に見えているのかも疑問だった。 どう考えても、男にしか見えないような気がするのだが。 …考えても仕方の無い事なので、もう考えないようにした。 とにかく今は、「女の子」でいなければならないのだ。 しかも、ロイがこの女性との交際を断る理由になるくらいの、とびきり可愛く、魅力的な女の子でいなければ。 「エ、エイミー…」 言った瞬間、ロイがブっと吹きだした。 <お、面白がりやがって…!!> エドがギっと睨みつけると、ロイは顔を背けた。 口元を抑えているが、明らかに笑っているロイに、女性は不思議な顔をした。 「…?そう、エイミーちゃん。可愛い名前ね」 |