「ちょっと待てってば…!」
俺に背を向けて、伊角さんと行ってしまいそうになるさんの腕をぐいっと掴んだ。
だっておかしいだろ。
俺に背を向けて。どうして伊角さんとどっか行くんだ?
俺達は、恋人同士なのに。
・・・いつからこんなに、複雑になってしまったんだ?
俺はただ、さんが好きなだけだったのに。
さんも俺の事、好きだって確かめたくて。
それだけだったけど、
ーおかしな小細工をしたから、こんな事になったんだ。
「…和谷君?」
驚いたように、俺を見る。
「…さんに、話がある」
もうこんなのは嫌だ。
さんと伊角さんが親しいところをこれ以上見るなんて、まっぴらだし、さんを伊角さんに、渡すつもりもない。
なかば強引にさんの手を引くと、そのまま歩いていった。
伊角さんは何も言わない。
奈瀬には小声で「ちゃん、泣かすんじゃないわよ!」と言われた。
「別れたい」
「伊角さんが好きになっちゃった」
「ごめんね」
ーとか言われてしまったら。
俺の方が、泣くっつーの…。
「…和谷君、手…」
人通りが多いところだったから、さんは恥ずかしがって手を離そうとする。
でも俺は離してやらない。
するとまた、「和谷君」とお願いされ、渋々離した。
「…何で、伊角さんと居たんだ?」
「…和谷君は?」
明日美ちゃんと、と続けられる。
ー答え、られない。
二人とも、暫く黙り込んでしまった。
するとさんが口を開いた。
「・・・私の家、行こうか。話、しよう」
ーとうとう、きた。
俺が話しをしようって、言ったんだけど…
正直怖い。
このまま、さんの家に着かずに、他愛のない会話を楽しみながら、愛を確認できたらと、そう思った。
さんの家に着いてしまえばきっと、聞きたくない言葉が出されるかもしれないから。
聞きたくない。
言わないで欲しい。
ー「別れたい」なんて、絶対に。
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