数日後―
「やけに機嫌いいわね、和谷…」
緩みまくった顔をしている俺を、奈瀬は怪しい目で見る。
それほどに、俺の表情は幸せに満ちていた。
「最近さんが…もう…すげー俺の事好きって感じでさ−」
「…は?」
「俺が奈瀬のトコ行こうとしたりすると、凄い寂しそうにするんだぜ?すっげ可愛い…」
頬を赤くしながら、緩む口を隠すように手を当てる。
もう俺は、完全に自分の世界に入っていた。
だって、無理もない。
以前は俺だけ求めていた、という感じだったのに、今ではさんから求めてくるのだ。
「ふーん…」
奈瀬は何が気に入らないのか、何だか機嫌が悪そうだった。
…やばい。のろけすぎた。
「ありがとな、奈瀬」
これからも頼むな、と片手でお願いをする。
最初はあれだけ乗り気でなかったのに、今ではこの様だ。
相変わらずさんの事しか頭に無い俺に呆れているのか、奈瀬は溜め息を零していた。
しかし。
翌日―。
さんは俺と2人で会っている最中、まだ早いというのに帰ると言い出した。
その理由は―…。
「…伊角さん…?」
「うん。これから伊角さんと用があるから…ごめんね…?」
「用って何だよ?」
「え……」
…怪しい。
何ですぐに答えてくれないんだ?
さん、何かやましい事でもあんのかよ…
そんな事がグルグルと頭を回り出した。
黙ったままのさんを問い詰めようとした、その時だった。
「さん」
「伊角さん…」
伊角さんは、さんの腕を掴むと、そのまま自分の方へ引き寄せた。
咄嗟に俺は、さんに触んな!と叫びそうになってしまったが、グっとこらえた。
さんは元々、赤くなりやすい。
案の定、伊角さんの行動にも真っ赤になって俯いていた。
待ってくれ…
何なんだ、これは…
伊角さんも、何触ってんだよ?
・・・気に入らない。
「…伊角さん、今デート中なんだけど」
顔を引きつらせながら告げると、伊角さんは余裕の笑みを俺に向けてきた。
しかも。
「ごめんな、和谷。さん借りるよ」
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