「ご、ごめんね!和谷君」
申し訳なさそうに振り返るものの、結局さんは、俺を残して行ってしまった。
「…何なんだよ…!!」
今日は奈瀬の所へ行く気は無かったのに。
それなのに、今度はさんの時間を伊角さんに盗られてしまうなんて。
胸の中は悔しさやら嫉妬やらで溢れかえる。
家に帰っても、考えるのは伊角さんとさんの事ばかりで、参ってしまう。
でも、気になるのも無理はない。
せっかくのデートを台無しにされた。
しかも、何の用事だか分からない伊角さんに。
…何でオレより伊角さんを優先するんだよ…。
俺だって、奈瀬をさんより優先してたけど、それはあくまで奈瀬の作戦だ。
窓から橙色の日が差し込む。
ふと時計を見ると、もう4時近くになっていた。
ー4時…
電話してみようかとも思った。
でも、さんと別れてまだ1時間。
きっとまだ伊角さんと一緒だろうと、溜め息をつく。
ゴロンと畳の上に寝っ転がっていると、いつの間にか眠ってしまった。
・・・・・・
ヴー・・・
ヴー・・・
…なんだ?
近くで、規則的な機械音が鳴っている。
あ、携帯…
「…っ」
さんかもしれない!
そう思って、飛び起きた。
携帯の画面を見るが、目がショボショボしていて、何だか見にくい。
でも、そのディスプレイに表示されている文字は理解できた。
『着信 さん』
やっぱりそうだ!
慌てて通話ボタンを押すと、聞きたかった声が流れてきた。
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