「・・・和谷君?」


「・・・うん」



「ごめんね…。寝てた?」



声が寝起きっぽい、と指摘され、俺が慌ててゴホン、と咳払いをすると、さんが微笑を漏らしているのが分かった。。

・・・今日のこと、聞くなら今だ。

『伊角さんと、何だったんだ?』

そう聞く前に、元気のない、さんの声が聞こえてきた。


「…ごめんね、今日」


今、さんが電話の向こうでどんな顔しているのか分かる。
こういう事、凄く気にする人だから。
きっと俺が怒ってるんじゃないかって、凄く気にしてると思う。

さんが、愛しい。


さっきまでの不安が段々薄れてきて。

伊角さんとの事、疑った自分が馬鹿みたく思えてきた。


そうだよな!
さんが好きなのは俺なんだから。

今日だって、何か仕方ない用事があったに違いない。

きっと理由を聞けば、サラっと答えてくれる。


「今日、伊角さんと何の用事だったんだ?」


きっとすぐに、答えてくれる。

言えない用事なんて、そんな物じゃない。


さんが好きなのは、俺ー・・・




そう思って聞いたのに。



シーンとしてしまった。




・・・さんから、返事が返ってこない。



どういう事だ?





「…何で言えねーの?」


ヤバイ。
あからさまに不機嫌な声になってしまった。

絶対さん、電話の向こうで恐がってる。


「…何の用だったんだよ…。伊角さん…」


「だから…その…」


中々言おうとしないさんに、俺はカっとなってしまう。


「そんなに言いたくないのかよ!?」


「ちが…っだから!!」


「だから何だよ!」


「もう!和谷君には関係ないでしょ!!」








ーーーーー沈黙…。





今、さんが言ったのか・・・?
マジで?







「・・・っご、ごめん!と、とにかく電話、もう切るから!ごめんね!!」


・・・は?

何?
切るって?



ツーツーツー。



受話器から無機質な音だけが聞こえる。


「嘘だろ・・・」


さんは結局、今日の伊角さんとの出来事を明らかにはしてくれなかった。

俺の心には、不安だけがどんどん募っていった。











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