口をポカンと開けたアホ面のまま、私は暫く固まってしまった。
な、何…
母さん、今、何とおっしゃいましたか…
「母さ…」
「光二さん、かわいそうなのよ?お母様も入院されてて、一人じゃ寂しいでしょ?お母様、二週間で退院されるんですって。だから貴方と一緒に二週間。いいでしょ?光二さんのお母さんと母さん、大親友なのよ。」
は・・・?
大の男が二週間一人で過ごすのが寂しいなんて。
そんな事、ありえない。
大体、それだったら母さん達の家に冴木さんを置いてあげればいいのでは…?
その意見を母さんにぶつけたが、無駄だった。
「・・・ひどいわよ…。光二さん、困ってるのに…ったら冷たい…。鬼のようだわ…」
と、メソメソ泣き真似までしだした。
チラっと冴木さんを見ると、悲しそうに目を伏せている。
あれ…?こんな顔もするの…?
さっきまでのプレイボーイっぽい顔はどこにいったんだろう…
不覚にも、私はその表情に少しドキっとしてしまった。
「そうだよね。無理、だよね」
無理に作ったような笑顔で、冴木さんが微笑みかけてくる。
うわ、ちょっとちょっと…
そんな切ない顔、しないで欲しい…
あんなに嫌がっていたのに。
ありえない、と思っていたのに。
不思議なもので、何故だか冴木さんを見ているうちに、段々「二週間くらいいいか」という気になってしまう。
・・・ああ、もういいか。
「…いえ、良ければ…二週間・・・」
気づいたら、私はそう言っていた。
「じゃあこの部屋、使ってくれますか?」
客間の扉を開けると、そこにはガランとした雰囲気が漂っていた。
ソファーが一つに、小さなテーブルが一つ。
もう随分、開いていなかった客間の扉。
勿論掃除だってしていなかったから、角に埃が溜まっている。
・・・汚くなってる・・・。
「へえ、広いね」
「…すみません、掃除してなくって…」
申し訳無さそうに冴木さんを見ると、冴木さんはおかしそうに吹きだした。
・・・何かおかしい事を言っただろうか。
「俺がいきなりここに来たんだから。さんが気にする事じゃないよ」
ポン、と頭に手を乗せて、軽く撫でられた。
大きい手が温かく感じて、何だか安心する。
嫌だ、私。
子供みたい。
「…冴木さんは…母に何か言われて、私の家に来たんですよね」
それこそ、お見合いのように。
自分のお母さんの親友となれば、きっと断りずらかったに違いない。
それで仕方なく、私の所へ来たんじゃないだろうか。
嫌々、来たんじゃないだろうか。
そう考えると、凄く悪い気がして。
「・・・もし、その…嫌々だったら…私から母に言っておきますから。」
帰っても大丈夫だよ、という事を冴木さんに伝えると、冴木さんは首を傾げた。
「何で?嫌だったら来てないよ」
そう言うと、冴木さんは窓をカラ、と開けた。
ヒラヒラと舞うカーテン。
外から入ってくる風が気持ちいい。
「叔母さんがさんの写真見せてくれて」
か、母さん…!
やっぱりお見合いもどきな事してたのか・・・!!
「タイプだったから、来たんだ」
・・・は?
タイプ?
目をきょとんとさせていると、冴木さんがジリジリと近寄ってくる。
ついつい、私が一歩後ずさると、冴木さんはピタっと止まった。
「これからよろしくね」
そう言って笑った冴木さんの顔は余りにも爽やかで。
あまりにも女慣れしていそうで。
…もしかして私は、とんでもない人と同居する事になってしまったのだろうか…。
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