その日の夕飯は、冴木さんが作ってくれた。
『任せて』という言葉に甘えて、私はリビングでくつろいでいたが、台所から聞こえてくる包丁の音にはびっくりした。
トントントン…と、なかなか慣れた様子だったから。
でも、出てきた料理にはもっとびっくりした。
「美味しそう…ですね」
出てきた料理は、ハンバーグ。
昔から私が大好きで、でも子供っぽい気がして、人に言うのは恥ずかしかった。
だから、社会に出てからは人前でそんな事、言っていないはずなのに。
「ちゃん、ハンバーグ好きそうだったから」
何でこの人、知ってるのー!!?
それとも私、そんなに子供っぽいかなぁ…
そんな風に思っていると、まるで、見透かされたように。
「何でも知ってるよ、ちゃんの事は」
じっと瞳を見つめられる。
何故か、そらせない。
「…私、そんなにハンバーグ好きそうな顔してますか?」
私の返答が見当違いだったのか、冴木さんはキョトンと目を丸くした。
「そんなに子供っぽいですか?」
眉を寄せて冴木さんを睨むと、冴木さんは吹きだした。
…あ、あれ?何かおかしかったかな。
「ごめんごめん…っ。叔母さんに聞いただけだよ」
からかってゴメン、と片手で謝られる。
か、母さん…
何で言うかな、そういう事を…
恥ずかしい。
「…いただきますっ」
恥ずかしさを隠すように、ハンバーグを口に運ぶと、口中にケチャップの効いたソースの味が広がる。
「・・・おいしい!!」
「だろ?」
「外はカリっとしてるのに、中はすっごい柔らかい〜!しかもこのソース!どうやって作る…」
はしゃいで、冴木さんにこのハンバーグがいかに美味しいかを伝えようとしてしまった。
…馬鹿?私…
なんでこんな、打ち解けて…
いきなり黙ると、冴木さんがまた、笑い出した。
…この人、よく笑うなぁ…
「ごめん…っ!いや、ちゃん、分かりやすいなぁと思って。面白い。」
いきなり黙るとことか、ツボ。
そう言うと、彼はどんどん食べて、と更に食事を勧めてきた。
私は急に恥ずかしくなって、照れてしまって。
お皿の中身を夢中で口に流し込むと、ガタンと席を立った。
「ごちそうさま!!」
ガチャガチャと食器を洗って、手早く片付けた。
もう早く、自分の部屋に帰りたい〜!!
冴木さんと一緒の空気に居ると、妙な気分になる。
…ドキドキ、する。
ーうわ、…乙女っぽくて嫌だ…
そんな事を思っていると、食べ終わった冴木さんが、台所へやってきた。
「私、やりますよ?」
夕飯まで作ってもらったのだから、後片付けくらいは。
そう思ったのだが、冴木さんはやんわりと断った。
「大丈夫、自分でやるよ」
ありがとう。と、微笑んでくれた。
・・・ちょっと得体が知れないけど、いい人、だよね。
とにかくちゃんと夕飯のお礼、言っておかなきゃ。
「…食事、凄く美味しかったです。ありがとうございました」
ちゃんと頭を深く下げてお礼を言うと、冴木さんにまた笑われた。
・・・やっぱり私、どこかおかしいのかもしれない・・・
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