「はー!?な、何言ってんの…!!」

さんが、焦り出す。
僕が何も言わないでいると、どうやら本気だという事が分かったみたいだった。
顔を背けて、焦り出す。

・・意地悪をして、ごめんね。

少し胸が痛んだけれど、これは効き目があると思った。
顔を俯かすさんを見て、そう確信していた。

そしてそれは、自信過剰なものではなく、さんは本当に、言おうとしていた。
その証拠に、少し唇が開いている。


「…言って?」

「・・・・す」


あと、少し。

あと少しで、さんは。


けれど。

「・・・アキラ君?」

横から、聞きなれた低い声が耳に入った。
この声は、確か。

自分の知っている人物が頭を過ぎり、ゆっくりと横を向いた。
映画の光でも、十分分かった。

白いスーツに、手を突っ込んでいる。

「…緒方さん」

「そっちのは……?」

「−−−−−!!!」


緒方が呼んだ途端、さんは勢いよく席を立ち、物凄い勢いで映画館から出て行ってしまった。

「…さん…!?待って…!」


続いて僕も、さんの後を追おうと映画館を出て行ってしまった。
それはそうだろう。
あんな体勢のまま、緒方さんに目撃されたのだ。

・・・僕は大丈夫だけど。

ああいうのが苦手なさんは、きっと。

ー怒ってる。




その後、結局さんに逃げきられてしまった。
電話をしても家に行っても居留守を使われて、さんと話すことはできなかった。












ゲーム3日目、今だ決着は付かず。










ゲーム4日目。

段々、不安になってきた。
さんが、あんなに行為を嫌がった事と、なかなか好きだと言わない事。
それら二つが合わさって、不安を倍にした。

もしかしたら、本当はそんなに好きじゃないのかもしれない。
僕はこんなに、さんを想っていても、さんはそうじゃない。
・・・かもしれない。



・・・怒って、いるかな。

こういう日に限って、仕事が入っていない。
モヤモヤしたまま、時を過ごすのは辛い。

畳に寝っ転がりながら、天井を見ていると、出るのは溜め息ばかりだ。




さん。

ー会いたいけど。

声が、聞きたいけど。

まだ、怒っているかもしれないし。
また、居留守を使われるかもしれないし。



嫌われたかも、しれないし。




ー…ちょっと待ってくれ…。

それは考えたくない。


また、溜め息を出した時だった。
扉の向こうから、声がした。

「アキラさん?さんが見えてるけれど」

ガバっと、上半身を起こし、「今行く」と返事を返す。
普段なら有り得ない程の勢いで階段を下りると、そこにはさんが立っていた。

マフラーに顔を埋めているが、何だか寒そうな様子だ。

僕が姿を見せると、さんは「よ!」と、片手を上げた。

「ごめんね、昨日。家帰ったら、熱出ちゃって。病院行ってんだ。お母さん、心配性すぎるよね」

たいした事ないんだけど、と鼻を掻く。

『ごめんなさいね、今、病院に行っているのよ』

昨日、電話した時のおばさんの答えが、フラッシュバックした。

ー居留守じゃなくて、本当だったのか。









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