「言わねーよ、絶対。大佐こそ、覚悟しておけよ!」 ベーっと舌を出し、部屋を出て行く。 やれやれと溜め息を吐くロイだが、彼には『切り札』があった。 これを言えば、きっとエドは自分を好きだと言うだろう。 絶対の自信。確信があった。 だがその切り札を使った瞬間に、虚しくなるだろうという事は、分かっていた。 どうしたら、彼が心から、進んで好きと言ってくれるのだろう。 それを思っては、また溜め息を零した。 一方、エドワード。 『また!?今度はなによ!』 以前も相談した相手、ウインリィに電話をかけていた。 アルに相談しても良いのだが、やはり恋=女、という図式があった。 エドにとっては、大したことだった。 恋の相談など、恥ずかしくて恥ずかしくて、どうしてもしたくないものなのだが。 だが、仕方ない。 成功すれば、ロイから本が貰えるのだから。 そしてそれで、弟が喜ぶのだから…。 それを思い、ぐっと息を飲み込んだ。 「あ、あのさぁ。えーと、色仕掛け?について詳しく教えてくんねー?」 この前のは、きっと何かやり方が違っていたに違いない。 もっと良い具合の色仕掛けはないものかと、ウィンリィに相談する。 が、ウィンリィは何処か心配そうな、それでいて少し、引いているような声色で尋ねてきた。 『な、なに…?なんでそんな事聞くわけ?』 「…お前がこの前、言ったんだろ!好きな奴に好きって言わせるには、色仕掛けだって」 『あのねぇ、それは女の立場でのものであって、男が女にやるもんじゃないの!』 男が男にやる上に、一応、立場的には俺は女の役割をしてるんだっつうの! …などとは、絶対に言えないエドであった。 いろいろ事情があんだよ、こっちも。と、適当に流しておくと、ウィンリィは受話器からでも余裕で聞こえるくらいの、盛大な溜め息を吐いた。 『そんなに好きって言ってほしいんなら、”好きって言って”って、言えばいいんじゃないの?』 それで言うような男ならば、苦労しない。 ロイは一癖も、二癖もある男だ。 それにあれでいて、口は相当達者だ。さすが、女たらしだ。 きっと、また何か仕向けてくるに違いない。 それを思うと、そんな事を言う気にはならなかった。 ペースを乱されて、ウッカリこっちが「好き」などと言うようなヘマだけはしたくない。 どうしたものか…。 なにかもっと、決定的なものはないだろうか。 『まぁ、そうね。色仕掛けって言ったら…』 「言ったら?」 『うるんだ瞳に、はだけた服!色っぽくねだる仕草に甘えた声!…こんな感じのイメージがあるんだけど、どう?』 「どうって…」 『夜這いとかもあるけど』 「………」 もう無理だと思った。 うるんだ瞳に、はだけた服。夜這い。エトセトラ。 …自分がやっても、気味が悪いとしか思えない。 今度はエドが、盛大な溜め息を吐いた。 『…ねぇ、エド。相手に好きって言ってほしいんなら、ちゃんと自分も、相手の事が大好きだって、伝えなくちゃ駄目よ』 さっきより、幾分か真面目な声で、ウィンリィがアドバイスを与えた。 …最もな意見だと思った。が、自分が先に伝えてしまったら意味が無い。 その時点で、負けになってしまうのだから。 だが、ウィンリィには事情は言えない。 その事情を知らない彼女が、精一杯、出してくれたアドバイスだ。 「…サンキュ」 エドは素直に、お礼の言葉を述べた。 ゲーム5日目ー 昨日、眠らずによく考えた。 考えて、考えて、考えて。 非常に乗り気ではないが、可能性があるのなら。 少しでも。 他にいい案もないことだし、やってみようかと。そういう結論に達した。 ー夜這い。そして、色仕掛け。 今夜、決行。 そういうわけで、夜にロイに会いに行く、という約束をしなくてはならない。 グっと拳に気合を入れ、ロイの執務室の扉を叩いた。 |