「今変な事したら、今日も明日も明後日も何もしないからな!」

エドの反撃に、ロイは一つ溜め息をつくと、間近にあったエドの顔から、ようやく自分の顔を遠ざける。
ロイが少し不満そうな顔をしていると、エドはてきぱきと服を着始める。
そこらに散らばっていたロイの服も、ベッドに投げた。

「昼飯と夕飯の買物行ってくる」

「そんなに急がなくてもいいんじゃないかね?」

「もう昼だから!」

恨みがましく言うと、ロイの部屋を出ようとする。ロイも手早くベッドから抜け出し、服を着るようとすると、エドがそれに気づいた。

「…ロイはいいよ。俺が行くから、留守番してて」

休日の買い物はまとめ買いが多い。その為、大概二人で一緒に行くのだが、エドはどうも少し怒っているようだった。

「怒っているのかい?」

「ねぇよ!いってくる!」

バタン!と勢いよく閉まるドアを見つめ、ロイは肩を落とした。
引き留めようと伸ばした手は、そのまま止まっている。
せっかくの休日。
もっと色々したかった…とロイは肩を下げた。



**


スーパーの近くの土手。
エドは気持ち良く風に吹かれていた。
この土手は、何かあった時には必ず来ていた、お気に入りの場所だった。

「気持ちいい…」

そよそよと、熱くも冷たくもない風が吹く度に、エドの金色の髪を揺らしていた。

そろそろ帰るかな、と思いスーパーの袋を持ち上げようとした瞬間。

「おチビさん」

聞き覚えのある声に、ゆっくり振り返る。

「エンヴィ−。あれ?お前、何で?」

エンヴィ−はこの辺には住んでいない。
この場所からエンヴィ−の住む家は、相当遠いはずだ。

「ここ、よく来るんだよね。気持ちいいから」

エドの隣に座り込むと、心地良い風が、エンヴィ−の長い髪を揺らした。
エドは驚いていた。
自分のお気に入りの場所が、エンヴィ−のお気に入りの場所でもあったなんて。

「ここから近いよね。おチビさんの家」

「ああ」

「同居してんだっけ?」

「ああ。…慣れない料理もそこそこ、できるようになった」

「−誰と同居してんの、おチビさん」



−ギクっと肩が揺れた。


話題を逸らす事ができない。
こんな時、エンヴィ−には敵わないと思う。

言っていないのだ。
ロイと恋人同士だということは勿論、同居人はロイだいうことも。

−本当は同棲、なのだが。


「…と…その…」

戸惑っていると、エンヴィ−がニヤっと笑った。

…言い出せなかった。

ロイがエンヴィ−の担任であるという事は知っていた。
だから、言えなかった。
自分とロイが普通の関係ではなかったから。
後ろめたい気持ちがあった。

「男っていうのだけは知ってるよ」

エンヴィ−に話したのは、それだけだ。

「……あー…まあ、いずれ紹介すっから」


「その内、ね…。いいよ、おチビさんがそう言うんなら」


今日は勘弁してあげる。
と不敵な笑みを浮かべた。エドはこの場を切り抜けられた事にホッとした。
安心するとすぐに、今度はエンヴィ−に対する疑問が気になった。
ずっと気になっていたが、答えてはくれない。




『どうして家を出たのか』




あまりしつこく聞くのもどうかと思ったが、やはり気になる。

「…なぁ」


返事はせずに、エンヴィ−はエドの方に視線を送る。

「…なんで家、出たんだ?」

「出たかったから」

全く、どうでもいいように答えられるが、どうしてだろう。
−どこか…納得がいかない。

「…居心地悪かったとかじゃねぇの?」

更に追究すると、エンヴィ−はエドの顔を見るのをやめ、前を向いた。
そよそよと流れていた風が突然、ブワっと二人に向かってきた。








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