急いで階段を降りると、ロイがソファで横になっていた。
自分がロイの部屋のベッドを占領してしまったから。
だから。
<…何だよ、俺なんか叩き起こせばいいのに>
もし自分が女性なら、フェミニストであろうロイの行動は当然のものだ。
だが自分は男だし、ロイにそんな気を遣わせるような間柄でもない。
叩き起こして「自分の部屋で寝なさい」くらい言ってくれても構わないのにと、そう思った。
そんな事を思いながらロイを見ていると、ロイの口が少し開く。
やっとエドは、ロイを起こすという目的を思い出した。
「大佐!朝!」
声をかけてもなかなか起きないので頬をペチペチと叩く。
するとようやく、ロイの目がうっすらと開いた。
「…‥鋼の?」
「朝だよ!ア・サ!」
やっと目覚めたロイに、とびきり大きい声で言ってやる。
しかしロイは、頬にあるエドの手を離そうとしない。
「…これは、君の手か」
「他に誰がいるんだよ」
まだ、完全に目が覚めていないのかと思い、エドは再び、ロイの頬を軽く叩こうと思った。
しかし、強い力で手をぎゅっと握られる。
ふと、昨日の朝の事が頭を過ぎった。
昨日の朝。
キス。
唇から漏れた言葉。
『‥エドワード』
唇から漏れた言葉は、自分の名だったか。
あまりの事に驚いて、その時の事は頭から抜け落ちたようだ。
曖昧な記憶を辿ってみても、意味のない事で。
<まさかまた、昨日みたいな事されるんじゃねーだろうな‥>
エドが警戒していると、その手を撫でられ、びくっと肩を揺らす。
「…っもう離せよ!」
だが、離してはくれない。
さほど強い力ではないが、エドの手の上からどこうとしない。
上半身を起こしてもまだ、エドの手は捕われたままだ。
一体、何がしたいのか。
元々思っていたが、ますますロイの事が良くわからなくなった。
何だかもう、「離せ」という言葉も出てこない。
エドが視線を下に向かせていると、やっと手が解放された。
かと思うと、次はその手で、頬に触れられた。
「…また、寝ぼけてんのかよ」
「いや…」
「じゃあ、この手離せよ」
キっと睨まれたかと思えば、すぐに目を逸らされた。
エドのそういった仕草が。
…期待を、持ってしまう。
「…離したくないな」
捕まえていた手首をグイっと力強く自分の方へ引っ張ると、エドの顔が近くなった。
口づけてしまおうと、唇を狙うがエドは勢いよく手を振り切った。
「…っなんなんだよ!」
「…良く眠れたかい?」
「……うん」
自分は良く眠れた。
ロイのベッドは普通の宿のものより相当柔らかかったし。
しかしロイは、というと。
エドが眠ってしまったばかりに、ソファで眠るハメになってしまったのだ。
今日もこれから仕事だというのに。
「悪い。大佐のベッド取っちゃって」
「いや。ああ、もうこんな時間か」
時計を見ると、ロイはスマートにソファから降りた。
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