追いかけっこ・7











急いで階段を降りると、ロイがソファで横になっていた。
自分がロイの部屋のベッドを占領してしまったから。
だから。

<…何だよ、俺なんか叩き起こせばいいのに>

もし自分が女性なら、フェミニストであろうロイの行動は当然のものだ。
だが自分は男だし、ロイにそんな気を遣わせるような間柄でもない。
叩き起こして「自分の部屋で寝なさい」くらい言ってくれても構わないのにと、そう思った。

そんな事を思いながらロイを見ていると、ロイの口が少し開く。
やっとエドは、ロイを起こすという目的を思い出した。

「大佐!朝!」

声をかけてもなかなか起きないので頬をペチペチと叩く。
するとようやく、ロイの目がうっすらと開いた。

「…‥鋼の?」

「朝だよ!ア・サ!」

やっと目覚めたロイに、とびきり大きい声で言ってやる。

しかしロイは、頬にあるエドの手を離そうとしない。


「…これは、君の手か」

「他に誰がいるんだよ」


まだ、完全に目が覚めていないのかと思い、エドは再び、ロイの頬を軽く叩こうと思った。
しかし、強い力で手をぎゅっと握られる。



ふと、昨日の朝の事が頭を過ぎった。




昨日の朝。


キス。


唇から漏れた言葉。









『‥エドワード』




唇から漏れた言葉は、自分の名だったか。
あまりの事に驚いて、その時の事は頭から抜け落ちたようだ。
曖昧な記憶を辿ってみても、意味のない事で。


<まさかまた、昨日みたいな事されるんじゃねーだろうな‥>


エドが警戒していると、その手を撫でられ、びくっと肩を揺らす。

「…っもう離せよ!」

だが、離してはくれない。
さほど強い力ではないが、エドの手の上からどこうとしない。

上半身を起こしてもまだ、エドの手は捕われたままだ。
一体、何がしたいのか。
元々思っていたが、ますますロイの事が良くわからなくなった。
何だかもう、「離せ」という言葉も出てこない。

エドが視線を下に向かせていると、やっと手が解放された。
かと思うと、次はその手で、頬に触れられた。

「…また、寝ぼけてんのかよ」

「いや…」

「じゃあ、この手離せよ」

キっと睨まれたかと思えば、すぐに目を逸らされた。

エドのそういった仕草が。


…期待を、持ってしまう。


「…離したくないな」

捕まえていた手首をグイっと力強く自分の方へ引っ張ると、エドの顔が近くなった。
口づけてしまおうと、唇を狙うがエドは勢いよく手を振り切った。

「…っなんなんだよ!」

「…良く眠れたかい?」

「……うん」

自分は良く眠れた。
ロイのベッドは普通の宿のものより相当柔らかかったし。
しかしロイは、というと。
エドが眠ってしまったばかりに、ソファで眠るハメになってしまったのだ。
今日もこれから仕事だというのに。

「悪い。大佐のベッド取っちゃって」

「いや。ああ、もうこんな時間か」

時計を見ると、ロイはスマートにソファから降りた。








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