その夜、ツナは何の躊躇いもなく、ディーノの部屋に行き、何の躊躇いもなく、彼と同じベッドに入った。
二人で寝るには大きすぎるベッドだ。距離を置くことは容易い。
ディーノはなるたけ、ツナの身体に密着しないように心がける。
しかし、ツナは何も気にはしていない。寒いのか、少し距離を詰め、ディーノに寄り添う。
その度、ディーノも距離を開けようとする努力は忘れなかったし、間違っても、彼に触ってはいけないということを、
自覚していた。

(−………無理なこと、頼んじゃったのかな)

ディーノの身体も、空気も、不自然な気がしてならなかった。
一緒に寝てもいいか、と聞かれたディーノはOKを出してくれたが、それは彼が優しいから、そう言ってくれただけであって、
本当は迷惑だったのではないだろうか。
ツナが上半身を起こすと、ディーノも起きた。

「…ツナ?」
「まだ全然、眠くならなくて」
「…ああ、オレも」
「少し、話してもいいですか?」
「ああ」

ディーノが頷くと、ツナは嬉しそうに、微笑んだ。
少しずつディーノに近づくと、やがてピタリと肩が触れた。
ーこれは、大変なことだった。彼を泣かせないようにする為、ディーノは、それはそれは大変な努力をした。
しかし、まるでディーノに頼り切っているように、ツナはディーノの肩に寄りかかる。
肩に感じる、ツナの柔らかな髪だとか、頬だとか、全ての感触を感じないように、心を殺す。
だが、誘惑に堪えられず、少しなら、と見てしまったツナの顔は、あまりに頼りなげに睫毛を伏せていたものだから、
ディーノは堪らず、自分の肩に寄っている頭を、優しく撫でてしまった。
するとツナは、くすぐったそうに、一瞬だけ瞼を閉じると、すぐに視線を上にあげ、ディーノを見て、嬉しそうに目を細めた。

そんな、目をされて。
一度触れてしまえば、もう止めることもできずに、髪をそうっと梳いていると、再びツナが、睫毛を伏せた。

「……モチダさん。まだ、オレのことを捜して…?」
「−………ああ」

今まで流れていた穏やかなものが、全て消え去り、一気に嫉妬の炎が広がった。
あの男は今、この場所に居ないというのに、この世界のどこかに存在しているという事実だけで、
この幸せな時間を邪魔してくれるのだ。なんとも、不愉快極まりないことだった。


「どこにもやらない………ツナ」
「え?」

小さくも、強い力で呟いたディーノの言葉は、ツナの耳には届いていないようだった。
しかし、ディーノの瞳の奥が変わり、それがどこか冷たい炎のようなものを燃やし、どこまでも続いていく暗闇を映していたものだから、ツナは思わず、ディーノの肩から頭を離した。

「……ツナ?」
「あ、……ピアノ…、聴けば、眠くなるかも」

ー恐いと、思ってしまった。
恐怖を感じたことを、ディーノに見透かされてしまわないように、ツナは素早くベッドから飛び降りた。
絨毯に足を着き、数歩進んでから、ディーノの居るベッドを振り返る。
ディーノは軽く頷き、微笑んでいた。

(ディーノさんは優しいのに……)

恐怖を感じた自分の心を責め、嫌悪し、ピアノに向かう。
鍵盤の上に指を乗せ、やはり奏でる曲はノクターンであった。
ゆったりとした曲調は、子守唄にも良いと思った。

静かに、静かに鍵盤の上を、指が軽やかに舞っていく。
瞼を閉じていると、限りなく優しい音色に、眠気を誘われる。
ツナが弾き終える頃には、ディーノは酷く、穏やかな気持ちになっていた。
もう少しで、眠ってしまいそうな。
ツナはそれを見ると、安堵の息を漏らした。ベッドまで、静かに足を進め、
枕に埋まったディーノの額を、そうっと撫でると、ディーノはその手を捉え、愛撫した。

「……おやすみなさい」

するりと、ディーノの側から手を抜き取ると、もう一度、撫でるように、彼の金色の髪に触れた。
ツナは細心の注意を払い、音が響かないように、そうっと扉を開け、閉めた。
ディーノはきっと、一人で眠りたかったのだろうと思う。
それを、彼は自分の為に、一緒に寝てくれると言ってくれたのだ。
ツナは自分の部屋に戻ろうと、薄気味悪い廊下を歩く。

(−…どっちだっけ…)

広すぎる屋敷は、どこをどう曲がっていいのか、暗闇の中だと更に良く分からない。
とりあえず、適当に歩いていけばつくかもしれない、と思い、ほてほてと歩いていると、後ろから腕を捕まえた。
死にそうなほど驚き、後を振り返ると、そこにはさっき迄見ていた人物が立っていた。
ぼんやりと照らすランプの灯の中で、彼の白い仮面はくっきりと見えた。

「…ディーノ、さん…?寝てたんじゃ…」
「一緒に、寝るんじゃねーの?」
「へ……」

おいで、と言わんばかりに、ツナの手を引くと、また、戻そうとする。
しかし、ツナはここで、容易く着いて行く訳にはいかなかった。
ディーノが一人で眠りたいのであれば、着いて行く訳にはいかなかった。

「や、やっぱり自分の部屋でー…」

ディーノとは反対の方に力をかけ、何とかその場に留まった。
すると、更なる力で、ディーノに引かれ、彼の胸の中に飛び込んでしまった。

「…嫌になった?」
「ち、ちが……っ!だってディーノさん、一人で寝た方が良さそうだったから…」
「…確かにー……ツナが居ると何かと、…大変だけど」
「?」
「あー、いや、何でもない。まぁ、何とかすっから。一緒に寝ようぜ?」
「………でも」

ツナが居ると、確かに大変だ。鋼のような理性を持たなければならない。
それを承知で、デイーノはツナを誘った。
しかし、ツナは、ディーノの本当の心が気になり、中々、首を縦に振ろうとはしない。

「……オレよりも、」

モチダの方が。
ふと、口から出てしまいそうになった言葉は、唇を閉じて、封印した。
さっき、ツナの口から、彼の名が出た時。
ツナは、何とも言えない、切ない表情をしたのだ。
ツナの心を、彼が少しでも占めているのかと思うと、どうしようもなく、嫉妬してしまうし、
ますます自分が壊れていくのを、感じてしまう。

「……いいんですか?一緒に、寝ても」
「勿論」

ディーノが即答すると、ツナはパアっと、表情を明るくさせた。
ディーノに抱かれているだけだったが、自分からもぎゅうっと抱き返す。
薄暗い廊下をゆっくりと歩き、部屋に戻ると、ツナは漸く、ほっとした。
正直、あの廊下は恐かったのだ。
ベッドに潜り、小テーブルの上のランプを照らす。
暫く会話を楽しみながら、しかし、やはりツナと距離を開けることは忘れなかった。
ツナの瞳が間近で嬉しそうに、蕩けそうになっていくのに魅了されながらも、話しを聞いたりしていると、
やがてツナは、瞳を閉じた。













すいません……!(なんだか謝るべきだと 思いました…)
チャキチャキすすまなくて ううう…><



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